「書簡」付属書、各国大使の署名1ページ目
(中国国際放送局/2019年7月13日付記事(後述「メディア報道から」掲載リンク先参照)より)
7月10日公開された、22か国による理事会議長および人権高等弁務官宛ての「書簡」に「激怒」した中国、
翌11日の会合で答弁権を行使して反論を行ない、さらに最終12日会合の一般結語でこの37か国「書簡」についての声明を行なっていた。
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メディア報道から
日本の報道メディアは、22か国書簡については野上官房副長官の記者会見発言を通じフォローしていたが、こちらの書簡には余り反応していない模様。下記はおもに海外メディアの報道から。
- AFP(2019年7月13日)
- ロイター(2019年7月13日)
「サウジアラビアやロシア含む37か国、中国の新疆政策を支持」
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インディペンデント(2019年7月13日)
- ガーディアン(2019年7月17日)
「新疆に関するガーディアンの見解:申し立てか、共謀か」
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ジャパンタイムズ(2019年7月13日)[AFP=時事]
「約40か国、国連書簡で新疆強制収容所について中国を擁護」
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Bitter Winter(2019年7月15日)
[…]37ヵ国が人権における中国の「偉業」を称賛[…]
- 中国国際放送局
(2019年7月16日)
(2019年7月15日)
(2019年7月13日)
- レコードチャイナ(2019年7月15日)[多維新聞網/環球時報]
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参加国
上掲「書簡」付属書をみると、先の「書簡」を上回る23か国までが国名のアルファベット順(アルジェリア、アンゴラ、ベラルーシ、ブルキナファソ、ブルンジ、コモロ、コンゴ、キューバ、北朝鮮、コンゴ民主共和国、エリトリア、ガボン、ラオス、ミャンマー、ナイジェリア、フィリピン、ロシア、ソマリア、南スーダン、シリア、タジキスタン、ベネズエラおよびジンバブエ)、そのうしろに14か国(サウジアラビア、パキスタン、エジプト、トーゴ、カンボジア、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦、バーレーン、スーダン、トルクメニスタン、クウェート、カメルーンおよびボリビア)が追加された(?)と思しき順序に署名されている。
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ディプロマットの分析
両「書簡」への参加国をディプロマットが分析している(2019年7月15日)。
「どの国が中国の新疆政策に距離を置くまたは反対しているのか?」
直ちに目に付くのは、各リストにおける地理的違いである。第一のはヨーロッパを中心とする西側諸国が占めており、第二はアフリカや中東諸国が占めている。重要なのは、第一の書簡にはイスラム教徒が多数を占める国からの署名が一つも含まれていない一方、第二にはサウジアラビアやパキスタン含む多くの国からの署名が含まれていることである。
次に、どちらのリストにも載っていない国がある。昨年夏、国連人権理事会を怒って去った米国の不在がとくに重要である。米国は中国の新疆政策に対して選択的に批判してきたが[*1 ]、トランプ政権は人権問題よりも貿易交渉を優先させ、全体的にあまり踏み込んだ発言をしようとしないようだ。先週末の論評でワシントン・ポストの編集委員会はコメントした:「米国は、これらの虐待を暴露し非難する最前線に立つべきである。代わりに国務省とホワイトハウスは、トランプ氏の他の優先事項に都合の良いときにだけ発言する」[*2]。
中・東欧の大部分の不在も注目に値する。例えば、いわゆる16+1諸国——中・東欧諸国と中国を定期的対話の枠組みに組み込んだ *3 ——において、エストニア、ラトビア、およびリトアニアのみが中国を批判するために立ち上がった。残りの国々——アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、ハンガリー、マケドニア、モンテネグロ、ポーランド、ルーマニア、セルビア、スロバキア、およびスロベニア——は、どちらの側につくのかを放棄した。ギリシャも加わらなかった。
カザフスタン、キルギスタン、およびウズベキスタンも、どちらのリストにも含まれていないのが目立つ。タジキスタンとトルクメニスタンは中国側についたが、他の中央アジア三か国は中立を保とうとしているようである。カザフスタンとキルギスタンにとって最も顕著なのは、新疆の収容所に注目するよう求める抗議者や市民団体により、新疆問題が国内問題となっていることである。拘留された人びとのなかにはカザフ人やキルギス人も含まれており、新疆において親族が行方不明になった家族を中心に市民社会団体ができている。
アジアからは、バングラデシュ、スリランカ、およびモルディブの不在と同様、マレーシア、インド、およびインドネシアの不在が目立つ。イスラム教徒が多数を占めるマレーシアは、中国の新疆政策について何度か懸念を表明しており、昨年、ウイグル人グループの中国への送還を拒否したことで、中国政府の怒りを買う危険すらあった。それでもマレーシアは、ウイグル人やその他の民族集団の扱いを問う書簡には署名しなかった。インドネシアは世界最大のイスラム教徒人口を抱え、インドは世界第三位、バングラデシュは第四位である。スリランカとモルディブの両国は、中国との政治的・経済的な関係で国際的な見出しを飾っているが、どちらの書簡にも署名していない。太平洋島嶼諸国も不在だった。
イスラム教諸国の、パレスチナ(イスラエル)やロヒンギャ(ミャンマー)への態度との違いは明白である( *1 も参照)。発言のブレが目立つトルコ *4 含む、いずれも態度を示さなかった、イタリア、ポルトガル、韓国には言及していない。
- ロイター
(2019年3月25日)
(2018年12月6日)
ついでに下記は「世界最長の海底トンネル」、ペテル・ヴェスタバッカ建設に関する記事。ゲームデザイナーとしても著名らしいピーター・ベスターバッカ氏が噛んでると。フィンランド(およびエストニア)は22か国「書簡」側に参加。
- ニュース・ナウ・フィンランド(2019年7月12日)
「中国の新契約、タリン・トンネルのプロジェクト軌道に乗せるが、依然、批判に悩まされる」
しかし彼[ベスターバッカ氏]は純粋にビジネス上の観点から言えば「日本からより良い取引を得れば、もちろん日本と取引する」と認める。
- ロイター
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人権理事会勢力
参院選があったからという訳ではないが、今回の共同声明への態度による現状の人権理事会47か国における勢力を集計してみた。
国連人権理事会理事国(2019年)
ウイグル問題共同声明「書簡」署名先別集計(n=47)そういう訳で、少なくとも2019年におけるメンバー構成での人権理事会では、この問題がとり上げられる可能性はきわめて低い。共同声明への態度を明らかにしなかった理事国——すなわちアフガニスタン、アルゼンチン、ブラジル、ブルガリア、チリ、クロアチア、チェコ、フィジー、ハンガリー、インド、イラク、イタリア、メキシコ、ネパール、ペルー、ルワンダ、セネガル、スロバキア、南アフリカ、チュニジア、ウクライナおよびウルグアイの計17か国から15か国を22か国書簡側に引き入れて過半数。
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2019年信教の自由に関する閣僚級会合
翌週にかけて関連した動きがあったのでいくつかリンク。22か国「書簡」に参加しなかったアメリカだが、昨年第一回が開催された上記の閣僚級会合で今年もペンス副大統領 *5 、ならびにポンペオ国務長官が演説を行なった(7月16日 - 18日)。
「2019年信教の自由に関する閣僚級会合 - 米国国務省」
海外ニュース翻訳情報局(2019年7月21日)
なお、6月4日にワシントンのウィルソン・センターで予定されていたペンス演説の方は24日、次いでさらに「近い将来」に延期され *6 、かつまだその「近い将来」には到っていないようだ。そちらはもともと天安門事件から30年目に合わせて設定されていた *7 。
- 日本経済新聞(2019年7月19日)
今回は16~18日に開かれ、100カ国超が参加した。ポンペオ氏によると、中国政府は「この会合に参加しないよう他国に働きかけていた」という。
- 毎日新聞(2019年7月19日)
- 読売新聞(2019年7月19日)
- ロイター
(2019年7月20日)
「米国は中国の宗教的権利に対する「偏見 」を拒否すべき:国営メディア」
(2019年7月19日)
※ 今世紀はまだ二十年ですが、すでにその地位を占めたと。前世紀の「汚点」(の少なくともひとつ)も中国だろう。
「ポンペオ、中国のウイグル人の扱いは「世紀の汚点」」
- AP(2019年7月19日)
「ポンペオ、信教の自由会合で中国に狙い定める」
- オーストラリア放送(2019年7月19日)
「中国のウイグル人の扱い米国務次官に「世紀の汚点」と呼ばれる」
- 中国国際放送局(2019年7月20日)
とてつもない下心を持つ米国の政治家に、「宗教の自由」を語る資格がどこにあるのか[写真キャプション]
- 日本経済新聞(2019年7月19日)
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トランプ大統領の面会
7月16日、上掲会合を控え、訪米した「宗教的迫害の犠牲者」27名との面会が行なわれたらしい。
- ロイター(2019年7月18日)
「トランプ、ホワイトハウスで中国のウイグル人その他の宗教的迫害の犠牲者に会う」
ワシントン(ロイター)——水曜日、宗教の自由を外交政策の中心に据えているドナルド・トランプ米大統領は、中国、トルコ、北朝鮮、イランおよびミャンマーなどからの宗教迫害の犠牲者と面会した。
ホワイトハウスは、大統領執務室における会議に参加した27名のうち、四名は中国からだったと述べた:ウイグル人ムスリムのジュウェル・イリハム、法輪功学習者の張玉華[チャン・ユーファ]、チベット仏教徒のニーマ・ラーモ、およびキリスト教徒の欧陽曼萍[オーヤン・マンピン]。
トランプの宗教の自由大使、サム・ブラウンバックは、水曜日の会合で、政府が木曜日の国務省会議で宗教の自由に関する「追加措置」を発表すると述べた。
トランプに面会した他の犠牲者の中には、ミャンマー、ベトナム、北朝鮮、イラン、トルコ、キューバ、エリトリア、ナイジェリアおよびスーダンからのキリスト教徒、アフガニスタン、スーダン、パキスタンおよびニュージーランドからのイスラム教徒、イエメンおよびドイツからのユダヤ教徒、ベトナムからのカオダイ学習者、イラクからのヤジディがいた。
- ロイター(2019年7月18日)
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新疆ウイグル自治区の歴史に関する白書
ペンス、ポンペオ演説の三日後の7月21日、内閣に相当する中国国務院の宣伝機関、新聞弁公室が発表 *8 、批判に反論した。
- 日本経済新聞(2019年7月21日)
中国政府は今年3月にも白書を発表し、ウイグル族の拘束は「テロを予防するための職業訓練が目的だ」などと主張した。短い期間に2度も白書を出して反論するのは、習近平(シー・ジンピン)指導部が欧米社会の人権批判に警戒を強めていることの表れといえる。
- 共同通信(2019年7月21日)
- ロイター(2019年7月22日)
- ブルームバーグ(2019年7月22日)
- 中国国際放送局(2019年7月21日)
[…]「歴史の改ざんや、真実の否定は許されない。新疆は分かつことのできない神聖な中国の領土であり、『東トルキスタン』であったことはない。ウイグル族は長期にわたる移動と融合により生まれた民族で、中華民族の一部である。新疆では多文化と多宗教が共存しているが、その各民族の文化は中華文化の下で育まれ、発展を遂げたものだ。
- 日本経済新聞(2019年7月21日)
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(その他ウイグル関連の報道から)
※ ガーディアン(など英国系)が力入れている(?)*9 。
- NHK(2019年7月16日)
- AFP(2019年7月16日)
- ロイター(2019年7月16日)
※ 崔天凱(ツイ・ティエンカイ)駐米大使が「グレートファイアウォール」の外側のツイッターを始め、(ウイグルではなく台湾だが)いきなり<炎上>させたらしい。
- 時事通信(2019年7月15日)
- ガーディアン
(2019年7月5日)
「中国、家族からムスリムの子どもたちを連れて行く急激なキャンペーン非難される」(2019年6月14日)
活動家は、公式訪問は100万人を収容すると考えられている収容所は人権侵害ではないという中国の物語を支持するリスクがあると言う
「ウイグル人が大量拘留された新疆を国連テロ対策ツアーが訪問」(2019年1月11日)
「もし収容所に入ったならば、決して出てこない」:中国のムスリムに対する戦争の内側」
- BBC
(2019年7月4日)
「中国はムスリムの子どもたちを家族から引き離している」(2019年6月21日)
「中国の再教育キャンプで真実を求めて」
(2018年10月24日)
「中国の隠された収容所」
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Bitter Winter(2018年11月26日)
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(国連人権高等弁務官事務所ホームページ)
「人権理事会41回セッション:ドキュメンテーション(英語))
「2. 政府からの連絡(Communications from Governments)」(英語)
2019年7月25日
2019年9月14日(「書簡」正式化文書へのリンク追加(国連人権高等弁務官事務所ホームページ))
*1:下記ガーディアン記事(2019年6月11日)にリンクしているが内容はタイトル名のとおりである。
「米特使、中国のウイグル人攻撃に対するイスラム世界の反応の欠如を非難」下記も参照。
CNN(2019年7月19日)
ロイター(2019年7月18日)
アブダラ・アル=ムアリミ・サウジ国連大使は、ニューヨークにおいて記者団にサウジの書簡への支持について尋ねられた際、この「書簡は中国の開発事業について述べているだけで、それ以外は何も述べていない」と語った。
「サウジアラビア、中国の新疆政策を支持する書簡を擁護」
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(2019年7月17日)
「中国:イスラム教諸国、虐待ごまかす」
*2:同記事については上掲 2019-07-10 エントリでも少し触れた。たしかに六月のペンス演説は中国との交渉を控えて延期されたりしていたが、すでに理事会を脱退しているアメリカが署名に加わらないことをごっちゃにするのはどうなのか。また今回すぐ翌週行なわれた演説のとおりということでもあり、この論評の見方は少々一方的だろう(後述の2019年信教の自由に関する閣僚級会合参照)。
世界経済評論IMPACT(2019年3月12日)
*4:下記エントリ掲載のリンク先も参照。
*5:下記参照。
*7:国連では下記のようなやり取りもあった模様。
共同通信(2019年6月4日)
*8:3月18日にも「反テロ、過激化排除闘争と人権保障」をめぐる白書」を発表していた。下記エントリおよび日経7月21日記事参照。
また、3月14日には下記のような発表も行なっていた。
人民網(2019年03月15日)
*9:ロイター(2019年7月4日)