dancept1の備忘録

答弁権のエソロジー

『極東国際軍事裁判記録』[対訳]:レヴィン弁護人による南京での被害者数への言及

*1][*2


ブルツクス辯護人 辯護人側ト致シマシテ血液ノ檢査ト云フモノノ反響二關シマシテ此ノ文書ニ書イテゴザイマスノハ、色々ノ種痘ヲ行ツタノデハナイカト云フコトヲ檢察側二紹介シタイノデゴザイマス、今申シマシタコトハ、此ノ報告ノ重要性ト云フモノニ關シテ或ハ效力ガアルカモ知レマセヌ、ソレカラ事件後ニナツテー頁、二頁ニアリマスヤウニ、検察側ノ要求二依ツテ調査委員會ガ作ツタモノデアリマス、一九四五年十一月十七日午後二時會議が行ハレタト此處ニ書イテアリマス、若シ種痘ト云フモノト、先程言ハレマシタ血液ノ種類ノ檢查ト云フモノ區別ガ御分リニナラナカツタノデアリマスナラバ、本法廷ニ取ツテ是ハ非常ニ重大ナ影響ヲ及ボスモノト考へマス、證據ノ上ニ重大ナ 影響ヲ與へルモノト考ヘマス、其ノ證據ニ付テハ旣ニ提出濟デゴザイマス

〔伊丹モニター 此ノ證據ニ付テハ今マデ二色々ナ認言ガ行ハレテ居ルノデアリマス〕

裁判長:ブルックス大尉。

ブルックス氏:裁判長よろしければ、この文書で、有毒な血清検査への反応に関するこの言及に関して、われわれは、これが、これらの人々の一連のワクチン接種からなっているのではないのかどうか、検察側に問いただしたいと考えます。この報告書に重きを置くことになるでしょう、それは、2ページ目に、検察により要請された調査委員会によって数年後に作成されたことを示しております。ここに1945年11月17日14:00に最初の会合が開かれたことを示しており、彼らがワクチン接種と、ここに記載されているような供述の違いを知らなかったとすれば、それはこの法廷にとって、すでになされた証言の要約であるこの証拠の重みを考慮するうえで、非常に重要なことであると考えます。

THE PRESIDENT: Captain Brooks. 

MR. BROOKS : If the Tribunal please, I think that on this document, this reference to the reaction to poisonous serums tested, we would like to inquire into prosecution if this does not consist of a series of vaccinations of these people. It would go to the weight to place upon this report, which shows on page 2 that it was made years afterwards by an investigating committee requested by the prosecution. It shows here on the 17 November 1945, 1400, the first meeting was held, and if they didn't know the difference between vaccination and the statement as set out in here, I think it would be very material to this Court in considering the weight of this evidence, which is a summary of testimony which has already been given. 

◯ロヴイン辯護人 私ハ辯護側ト致シマシテ、 何カ斯樣ナ文書ニ對スル、辯護側二對スル保護ハ必要デハナイカト思フノデアリマス、殆ド矛盾ノナイ證據ガ相當アルト思ヒマスガ、私ハ判事控室ニ於キマシテ、南京暴行事件ニ對スル證言ニ付テ申シマシタデスガ・・・・

〔伊丹モニター 但シ控室ニ於ケル會議ノ時ニ私が申シマシタヤウニ、辯護團ハ南京 暴行事件ニ關シテ後刻證據ヲ提出スルト申シマシタ〕

又南京ニ於ケル残虐行爲二付テト云フ文句ヲ附加致シマス、我々辯護人ト致シマシテ、如何二モ此ノ法廷ハ、檢察側が要約或イハ宣誓口述書ヲ此處ニ提出スル意味二於テ相當援助シテルヤウニ思フノデアリマス

裁判長:レヴィンさん。

レヴィン氏:この性格の文書の使用に対して、弁護側には何らかの保護が必要であると思います。いちど判事控室で、弁護側が南京暴行事件とそこで犯された残虐行為に関連して何らかの証言を提出することを指摘しておりますのを除き、いくつかの点において実質的には矛盾しない、大量の証拠があります。われわれには、法廷が、宣誓供述書の使用を許可し、要約の使用を許可することで、検察側の立証を助けるために多大な努力を払ったように思われます。

THE PRESIDENT: Mr. Levin. 

MR. LEVIN: Mr. President, I believe the defense ought to have some protection against the use of a document of this character. There has been a great deal of evidence, practically uncontradicted in some respects, except as I indicated one time in Chambers that the defense would offer some testimony in relation to the Rape of Nanking and the atrocities which had been committed there. It seems to us that the Court has gone to great length to help the prosecution present its case in permitting the use of affidavits and permitting the use of summaries. 

◯ウエツブ裁判長 法廷ヲ批評スルコトハイケマセヌ

裁判長:法廷を批判してはいけません、レヴィンさん。

THE PRESIDENT: You must not criticise the Tribunal, Mr. Levin. 

◯ロヴイン辯護人 私ハ裁判所ヲ批評スルヤウナ意圖ハ毛頭ナイノデアリマス、唯私ハ少クトモ檢察側ニ對シテハ、今マデノ手續ヲ踏ム意味二於テ法廷ハソレヲ許シテ居ルト云フコトヲ申上ゲタカツタノデアリマス、私ノ申シタイコトハ、檢察側ハ宣誓口述書其ノ他ノ文書ヲ此處ニ提出スル權利ヲ有シ、又其ノ提出ノ方法ニ付テ法廷ノ許可得テ居ルノデアリマスガ、私ノ異議申立テタイコトハ斯カル性質ノ文書ヲ提出スベキデハナイト云フノデアリマス、モウ旣ニ法廷ハソレヲ示唆サレマシタ、斯カル證據ト云フモノハ非常ニ累積的ナルト云フコトヲ法廷ハ旣ニ言ハレテ居ルノデアリマス、斯カル事態ガ發展致シマスト、其ノ疑ガ起ツテ來ルノデアリマスガ、モウ既ニ法廷モ斯ウ云ウ風ナ證據ハ累積的デアルト云フコトヲ言ツテ居ラレマス、 斯カル宣誓口述書或ハソレニ類似シタ文書ヲ提出スルコトニ鑑ミマシテ辯護團ト致シマシテ是等ノ文書二入ツテ居ル不適當ナル部分ニ對シテ辯護側ヲ如何ニ保護スルカト云フコトノ問題ガ起ツテ來ルノデアリマス

〔伊丹モニター 最初ノ方ヲ一寸訂正致シマス、斯カル狀態ガ其ノ儘放任サレマスレバ、詰リ證據ガ累積シマスレバ裁判所ハ一種ノ行動ヲ執ル、詰リ裁定ヲ下スニ違ヒナイ、ソレデハ・・・・其ノ後ハ通譚ノ儘デ結構デス〕

レヴィン氏:そんなことはありません。裁判長閣下、法廷を批判するつもりはいささかもございません。法廷が、検察側が有している方法で手続きを行なうことを許可したということだけです。申し上げようとしているのは、おもにこうです、検察は、宣誓供述書を提出する権利、要約を提出する権利、ならびに法廷が許可した方法で訴訟を提起する権利を有しておりますが、これらの文書に、この証拠品のような性格の証拠を含めるべきではないということです。法廷は、ある時点で証拠が重複的となることを示しており、その事態が進行すれば法廷は行動を起こすでありましょうし、わたくしには、この証拠が重複的である点においてすでにその証拠であるように思われ、また、弁護側は、宣誓供述書を読むことが許可されているという事実にかんがみますと、これらの宣誓供述書の不適切な部分に関連して自らを防御する方法や手段を持ちません。

MR. LEVIN: I am not. Mr. President, I am not in the least intending to criticise the Tribunal in any way. I simply mean that the Court has permitted the prosecution to proceed in the manner which it has. What I am trying to say largely is this, that the prosecution, having the right to submit affidavits, having the right to submit summaries, and having the right to present the case in the manner in which the Tribunal has permitted it to present it, it ought not to have in these documents evidence of the character which is in this exhibit. The Court has indicated that at some time the evidence becomes cumulative, and if that situation develops the Court would act, and it seems to me that with the evidence that is already in that this evidence is cumulative, and the defense, in view of the fact that the affidavits are permitted to be read in, has no manner or way of protecting itself with reference to improper portions of those affidavits. 

◯ウエツブ裁判長 アナタハ證據ニ対シテ抗議ヲ申シテ居ルト思ヒマスガ、其ノ抗議ノ意味ハ中華民國ノ檢察官ガヤリマシダ毒物ノ試験ノ結果ニ付テデアリマスカ、私ノ同僚ノ申シマスコトニモ依リマスガ、アナタノ仰シヤルコトハ單ナル想像ニ基クモノデハナイカト思ハレマス

〔伊丹モニター訂正 證據ヲ持タザル單ナル断言トシカ聞エマセヌ〕

裁判長:さて、いま、あなたには、ある特定の証拠に異議を唱えるためにだけ、そこにいる権利があります。あなたが異議を唱えている証拠というのは、毒物によるとおぼしき中国人に対する検査についてのことであると解します。同僚たちがどう考えるかによりますが、わたくしには、なんの証拠にも裏付けられていない単なる主張にしか見えません[*3]。

THE PRESIDENT: Well, now, you are entitled to be there only to object to a certain bit of evidence, and the evidence I take you to be objecting to is that referring to tests on Chinese apparently with poisonous materials. Subject to what my colleagues think, that appears to me to be a mere assertation unsupported by any evidence.

◯ロヴイン辯護人 更ニ法廷ノ注意ヲ喚起致シタイコトハ、第四頁ノ最後ノ節ノ第一行ニアル被害者ノ總數デアリマスガ、二百十七萬五千五百八十六ト云フ點デアリマス

レヴィン氏:それに加えて、裁判長閣下、4ページ目の段落の、最後の段落の一行目に法廷の注意を喚起したいと思います。それは「殺された犠牲者数は合計217万9,586人」と述べています。

MR. LEVIN: In addition to that, Mr. President, I would like to call the attention of the Tribunal to page 4, the first line of paragraph -- of the last paragraph, which states, "The number of victims killed totaled 2,179,586." 

◯ウエツブ裁判長 ソレハ訂正サレマシタ「ロヴイン」サン

裁判長:それは訂正されました、レヴィンさん。

THE PRESIDENT: That was corrected, Mr. Levin. 

◯ロヴイン辯護人 更ニ外ノ部分ニ注意ヲ喚起致シマスガ、南京二於テ殺害サレタ數ハ三十萬トナツテ居リマスガ、私ノ承知シテ居ル範圍ニ於キマシテハ南京ノ人口ハ二十萬デアリマス

レヴィン氏:ブルックス氏は、宣誓供述書の別の部分に、南京で30万人が殺されたという供述が含まれていることに注意を促しておりますが、わたくしの理解では、南京の総人口はわずか20万人です。

MR. LEVIN: Mr. Brooks calls my attention to the fact that in another portion of the affidavit is contained the statement that 300,000 were killed in Nanking, and as I understand it the total population of Nanking is only 200,000. 

◯ウエツブ裁判長 アナタハソレニ關スル證據ヲ提出シテモ宜ウゴザイマスガ、今ハイケマセヌ

〔伊丹モニター訂正 其ノ證據ヲ持ツテ居ラレルカモ知レマセヌガ、今ハソレヲ持チ出ス時デアリマセス〕

裁判長:さて、あなたは、その証拠を持っているかもしれませんが、この段階ではそれを持ち込むことはできません。

THE PRESIDENT: Well, you may have evidence of that, but you cannot get it in at this stage. 

 證據ト云フモノハ、確定シテ居ルカ、或ハ、ボンヤリシテ居ルカ、或ハ證據ノナイ推定ニ依ルモノカト云フコトニ依リマシテ、判事ノ方ト致シマシテハアナタノ仰シヤルコトヲ此處デ受容レルコトハ出來マセヌ、判事側ノ方モ非常ニ注意ヲシテ居リマスカラ、ソンナ心配ハ無用デス、 又辯護側ハ判事ニ對スル保護ハ必要ガナイト云フコトヲ申上ゲタイノデアリマス

レヴィン氏:いいえ、したくありません、裁判長閣下。

裁判長:判事側は弁護側同様、不明確または曖昧な、あるいは証拠に裏打ちされていない大ざっぱな主張が却下されるよう警戒します。判事側に対する防御は必要ありません。

MR. LEVIN: No, I do not want to, Mr. President.

THE PRESIDENT: The Judges will be just as vigilant as the defense to see that evidence which is indefinite or vague, or sweeping assertions which are not supported by evidence, are rejected. You need no protection against the Judges. 

◯ロヴイン辯護人 ソレハ辯護人ト致シマシテモ確カニ分ツテ居リマス、又我々辯護人ト致シマシテ、餘リ細イコトニ一々異議ヲ申立テルコトハ、致シタクナイト考へテ居リマスガ、少クトモ檢察團側ハ、此ノ法廷又ハ我々辯護側、或ハ一般ノ民衆ニ對シ、一ツノ任務ガアルデアリマス、ソレハモウ旣ニ十分提出サレマシタ證據ニ對シテ、出來ルダケノ注意ト考慮ヲ拂ツテ戴キタイノデアリマス

〔伊丹モニター 證據提出ニ當ツテ十分ノ慎重ナル考慮ヲ拂ハレンコトヲ希望スルノデアリマス〕

レヴィン氏:裁判長閣下、われわれはそれを確信いたしております。われわれは提示される小さな誤りに注意を喚起するようなことはしたくありません。しかしながら、検察側が、法廷に義務を負い、われわれに義務を負い、国民に義務を負っていると、われわれは感じています。そして、わたくしには、証拠が完全に網羅されている場合、彼らがこの種の問題の提示に、ある程度の裁量と注意を払うべきであるように思われます。

MR. LEVIN: Mr. President, we are sure of that. We do not want to be captious in calling attention to minor errors that appear. However, we do feel that the prosecution does owe the Tribunal a duty, it owes a duty to us, and it owes a duty to the public. And it seems to me that where the evidence has been fully covered, that they ought to exercise some discretion and care in the presentation of matters of this kind. 

◯ウエツブ裁判長 辯護人側ノ反對サレマスル中華民國ノ毒薬、毒物ニ關スル試験ノ結果ト云フ「ステートメント」——陳述ニ付テノ異議ハ許可致シマセヌ、證據トシテ却下致シマス

〔伊丹モニター 中華民國ノ毒物ト云フノデナクテ、中國人ニ對スル毒物ノ毒性試験ニ關スル・・・・〕

 ニ關スル辯護側ノ異議ハ證據ト致シマシテ却下致シマス——「サトン」檢察官

裁判長:さて、結果として、弁護側が異議を唱える供述、すなわち中国人に対する毒物による試験があったという供述は、証拠として却下されます[*4]。

 どうぞ、サットンさん。

THE PRESIDENT: Well, in the result the statement to which the defense objects, namely that there were tests with poisonous materials on Chinese, is rejected as evidence. 

Yes, Mr. Sutton.


2022年01月30日

*1:『極東國際軍事裁判速記録. 第58號 (昭和21年8月29日)』、pp. 18-19(『国立国会図書館デジタルコレクション』コマ番号 18-19)dl.ndl.go.jp

*2:Court Record of the International Military Tribunal for the Far East. 1946/08/29 (pp. 4,449-4,565)、pp. 4,548-4,552(同上コマ番号 105-108)dl.ndl.go.jp

*3:このセンテンスは前のセンテンスを受けて弁護側に対して述べているのだろうが、英語速記録では、検察側の証拠に対してのようによめなくもない(?)。*4 も参照。

*4:下記で触れたように論旨があべこべに(笑)。当該の「供述」が、この法廷証(No. 327)で実際にどのように扱われているのか未確認だが、日本語速記録にあるように「辯護側ノ異議ハ」「却下」なのだろう。「さて、結果として、弁護側の唱える異議、すなわち中国人に対する毒物による試験があったことへの陳述は、証拠として却下されます。」か。