つづいて *2 、ベン・ブルース・ブレイクニー(Ben Bruce Blakeney)弁護人による原爆投下やソ連 *3 への言及を含む発言を、Court Record of the International Military Tribunal for the Far East. 1946/05/14 (pp. 194-303)(『極東国際軍事裁判記録 1946/05/14(pp. 194-303)』、以下『裁判記録』と表記)から抽出(pp. 204-215/コマ番号 12-23)、ならびに、極東国際軍事裁判議事録日本語記録 Japanese Record of Proceedings of the International Military Tribunal for the Far East の当該部分にあたる『極東國際軍事裁判速記録. 第5號 (昭和21年5月14日)』(以下『日本語記録』)を参照した。今回も『国立国会図書館デジタルコレクション』から。ドキュメントへのリンクは記事末尾に掲載(こちら)。
タイトルのとおり、この発言は『日本語記録』には収録されていない。『裁判記録』のほうには採録されており、いまとなってはその逆よりはましかもしれないが(?)、にしても、GHQ による「焚書」を想起しないではいられないという。
じっさいに『裁判記録』にあたってみると、ブレイクニー弁護人が「正義と法への忠実に対するわれわれの名声に輝きを付け加えることは望むべくもない」と訴え発言を締めくくるのだが、無粋にも(?)言語官(Language Arbiter)のムーア少佐——こんなチャラくはないのだが要するに(笑)——「裁判長、あれって日本語訳いるっすかね?」と来た。
当記事のタイトルはやや煽り気味(?)ということになるのか裁判初期ということもあり、混乱があったということのようだ。とはいえ裁判長が指摘したように同時通訳が止まってしまうこと *4 、ならびに『日本語記録』上でもそのまま未採録になってしまうのは——同時通釈の速記録それ自体としては正しいのだが——また別とおもえる。後者については、このあと『日本語記録』には「モニター」*5 による訂正・補記が入るようになったということか。続くジョージ山岡弁護人による申し立ても落ちているが、検察側や裁判長の発言などにも脱落がある。
原爆への言及部分の日本語訳はそれなりに見掛けるが、2019年にはデジタルリマスター版も公開された映画『東京裁判』(1983年)の字幕からの引用が多いような *6 。こんかい日本語訳の記事では、この日のブレイクニー弁護人の発言全体から、それなりの分量なので前半は——言語部長(Language Section Chief)によれば「考えを要約したもの」ということになるようだが——『日本語記録』を参照いただくとして(汗)、「以下通訳なし」(p. 22/コマ番号 2)以降にあたる後半部分全体、ならびにその前後、言語部と裁判長のやり取りなどを合わせて抽出し、対訳とした(『裁判記録』pp. 204-220/コマ番号 12-27, 34)。なお、p. 220 は飛んで p. 226 の後ろ(コマ番号 34)に乱丁していた。「原所蔵機関」の米国国立公文書館マイクロフィルムでも同様なのかは未確認。
発言は前日、清瀬一郎弁護人より提起された法廷の管轄権にまつわる異議への補足の申し立て。これらを読むにつけ *7 、いやしくも日本国民たるもの、サンフランシスコ講和条約に署名するも、これらの申し立てのあらましについて——さらに付け加えるならば同条約第11条には<判決を>受託したとあることについて——学んで然るべきともおもわれるのだが、教科書には「歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮」は求められても、あるいはそれゆえにも、記述されたりすることはないんでしょう。
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「東京裁判—ブレイクニー氏の日本の無実の弁護」
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Court Record of the International Military Tribunal for the Far East. 1946/05/14 (pp. 194-303)dl.ndl.go.jp
(英語版サイト)dl.ndl.go.jp
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"Court Record of the International Military Tribunal for the Far East"
検索結果(417件)dl.ndl.go.jp(英語版サイト)dl.ndl.go.jp
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極東國際軍事裁判速記録. 第5號 (昭和21年5月14日)dl.ndl.go.jp
(英語版サイト)dl.ndl.go.jp
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"極東國際軍事裁判速記録" 検索結果(346件)dl.ndl.go.jp
(英語版サイト)dl.ndl.go.jp
2022年02月12日
*1:概要蘭に "Maj.Ben Bruce Blakenley,defense counsel,addresses the court at the International War Crimes Tribunal for the Far East" とある。commons.wikimedia.org
出典はリンク切れ、現在は削除されたのか、あるいはサイトリニューアル等移転したのか中国国家図書館サイトのギャラリーのようである。下記は web.archive.org から。
「東京裁判 - フォトギャラリー - 中国国家デジタル図書館」web.archive.org
*2:下記参照。
*3:名指しはしていない(が明白)。ついでながら訳すにあたっては<鉄面皮>とでもしたいところだったが(笑)さすがにそのようには述べていない。
*4:抽出した部分のあとで弁護側も指摘しているほか、前々回の審理(5月6日)では同時通訳が落ちた際に裁判所速記官(Court Reporter)に、かんぜんではないようだが復誦させたようだ(『裁判記録』1946/05/06/『日本語記録』第3号)。
*6:2019年版予告編にも採録されているが、下記のリンク先に掲載されている「予告動画」からそのサムネイルをご覧あれ[追記:公式サイト閉鎖されたようなので YouTube 埋め込みでリンク先追加 ← 復活した(?)ようなので戻す]。www.tokyosaiban2019.com
*7:検察側の起訴状朗読に続き被告人の罪状認否前に提起されていたが、そのあとに回されていた。清瀬弁護人による、張鼓峰事件(1938年)の講和の「事実」がソ連代表検事の主張で記録から削除されたり(ただし弁護側留保有り)、同じくキーナン主席検事やコミンズ・カー次席検事への反駁でトルーマン大統領による予算教書演説での「世界の歴史が始まつてからはじめて戦争製造者を罰する裁判」との発言引用の扱いに関する議論を、ウェッブ裁判長に打ち切られたりしている(『裁判記録』1946/05/13/『日本語記録』第4号)。