文書番号:(なし)
ノート:
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シンポジウム(2018年5月3日)
「拉致問題を含む北朝鮮における人権状況改善のための具体的行動を促す国際協力の可能性」と題されたシンポジウム(於:ニューヨーク国連本部カンファレンスルーム6)に、家族会・救う会・拉致議連による訪米団が出席。下記等によればオーストラリア、日本、韓国、アメリカ政府、EU 代表部の共催だが、UN Web TV に「日本常駐ミッション主催(Organized by the Permanent Mission of Japan)」とある(下記掲載 UN Web TV リンク先参照)。
別所浩郎国連日本政府代表部特命全権大使の開会挨拶で始まり、加藤勝信拉致問題担当大臣が基調講演を行なった *1 。モデレーターにロバート・S・ボイントン(Robert S. Boynton)ニューヨーク大学教授。拉致被害者家族の横田哲也家族会事務局長、飯塚耕一郎同事務局次長、特定失踪者家族の生島馨子氏、脱北者のチ・ソンホ(Seong-ho Ji)氏、北朝鮮で拘束され帰国後死亡したオットー・ワームビア(Otto Warmbier)氏の両親フレッド、シンディ(Fred, Cindy Warmbier)夫妻がスピーチを行なった。
後半のパネルディスカッションでは、ヒューマン・ライツ・ウォッチから国際司法プログラムのアソシエイト・ディレクター、パラム=プリート・シン(Param-Preet Singh)氏、国連人権高等弁務官ニューヨーク事務所所長クレイグ・モカイバー(Craig Mokhiber)氏、西野純也慶大教授、ブルッキングス研究所からジョナサン・ポラック(Jonathan Pollack)シニアフェロー、ケリー・E・カリー(Kelley E. Currie)アメリカ国連大使、李晟允(リー・サンユン/Sung-Yoon Lee)タフツ大学フレッチャースクール教授、ジリアン・バード(Gillian Bird)オーストラリア国連大使、拉致議連から山谷えり子会長代行、救う会から西岡力会長、ジョアンヌ・アダムソン(Joanne Adamson)EU国連大使が発言した。
ことしの合同代表団の訪米は「最後のチャンス」を前に、アメリカ側の対応にこれまでにない手応えを感じたということだが、最後は日本政府が主体となる。北が「全員」の帰国を認めたとしても、日本の当局、情報機関で「全員」をどこまで特定・追求できるものなのか心もとないところ。国連の査察は長引くだけ。ここでもアメリカ頼み?。
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(救う会ホームページ「メールニュース」)
- 自民党拉致対が訪米等を報告(2018/05/09)
- 国連本部で飯塚耕一郎さんが訴え(全文)(2018/05/08)
- 訪米団活動報告4 5月4日ワシントン(2018/05/06)
- 訪米団活動報告3(2018/05/06)
- 家族会・救う会・拉致議連代表団が訪米報告2(2018/05/03)*2
- 家族会・救う会・拉致議連代表団が訪米(2018/05/01)
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2016年のワシントンDC、ニューヨーク国連本部でのシンポジウム
前者は戦略国際問題研究所(CSIS)との共催。後者ではシン氏(ヒューマン・ライツ・ウォッチ)らも出席し、告知では司会、モデレーターとしてボイントン教授の名も *3 。
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( UN Web TV )
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『「招待所」という名の収容所―北朝鮮による拉致の真実』
シンポジウムでモデレーターを務めたボイントン教授の著書(原題:The Invitation-Only Zone: The True Story of North Korea's Abduction Project)(2016年)。出版当時、産経の古森義久氏が、(日本でなく)韓国政府系の研究機関「米国韓国経済研究所(KEI)」が本書を取り上げセミナーを開催したと報じていた。
同書は迫真のノンフィクションと呼んでも誇張はない。ただし、ボイントン氏は拉致事件の背景と称して、日本人と朝鮮民族との歴史的なかかわりあいを解説するなかで、日本人が朝鮮人に激しい優越感を抱くというような断定をも述べていた。文化人類学的な両民族の交流史を奇妙にねじって、いまの日朝関係のあり方の説明としているのだ。
未読なので何とも言えないが(汗)、歴史的・長期的視点で(記者クラブ会見報道参照)というのであれば、少なくとも李氏朝鮮の華夷秩序にもとづく日本蔑視くらいには言及しているのであろうか。
「北朝鮮の拉致プログラムの発刊と討論 - 韓国経済研究院 | 米国韓国経済研究所」(2016年2月4日)*4
ボイス・オブ・アメリカも取り上げていた模様。
「専門家:頭脳流出を阻止しようとする北朝鮮の拉致 | ボイス・オブ・アメリカ」(2016年2月5日)
外交問題評議会(CFR)の日本研究シニアフェローのシーラ・スミス(Sheila Smith)氏 *5:「長年、日本の人々は拉致の噂を右翼の陰謀論として退けてきた」「宇宙人による拉致は、それに近いものがあるのかもしれない」。しかし「2002年に五名の拉致被害者が日本の地に戻ってきたとき、北の行動と脅威に対する日本の大衆の意識が目覚めた」。いっぽう小森氏も言及しているブルッキングス研究所のキャサリン・ムン(Katharine H. S. Moon)氏 *6:「拉致プロジェクトは孤立した現象ではなく、南北関係、日朝関係、第二次大戦後の数十年間もの日本内の朝鮮人の扱いと密接に関連している」「あなたの本の美点は、わたしは拉致被害者についてだけ期待していたのですが、日本、北朝鮮、韓国それら社会すべてにおける、その時代の歴史についてもっと学んだのです」。
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ボイントン教授記者クラブ会見(2018年1月9日)
上記著書は昨年日本で翻訳され *7 、今年1月には記者クラブで会見を行なっていたようなのだが、これが質問している記者とのレベルの違いというか、ことに朝日のポンコツぶりが目立つ会見である(苦笑)。
教授は例に漏れずトランプ嫌いの模様(「本など読んだことのない人だろう」)。「お久しぶりです」などと切り出した朝日・北野隆一編集委員、しつこく再確認していたが、米大統領が拉致問題に言及し始めたのは安倍氏の働きではないというような答えを引き出そうとしているように見える(当方の色めがね?(笑)。ところが教授、アメリカでのトランプ大統領同様の日本におけるマスコミのアベ嫌いを知ってか知らずか「皆さんがたの首相、安倍さん」の功績であると、さかんに総理を持ち上げる。会場は気まずい雰囲気が漂ったであろう(笑)。
続いて朝日OB小田川氏(小田川興元編集委員・元ソウル支局長/在韓被爆者問題市民会議代表?)、被害者家族の言などと断りつつ、「日本による「植民地支配」の拉致への影響についてどう考えるか」という如何にもな質問(著者は歴史的背景についての質問を歓迎しているが)。教授:日本と台湾の関係は良好、単純に結び付けるのは「まったく近視眼的」であると。もっともな回答だが、近親憎悪的な見方を示しつつ、日本統治時代に「朝鮮的」なる概念が日本人によって打ち立てられ、うんぬんというのはよく分からなかった(まぁ上掲、古森氏の指摘と関連がありそうではある)。ところが小田川氏、「質問の意図が伝わらなかった」などと述べ(そうは思えないのだが)、またもやある家族の言はと食い下がる。が、教授は北朝鮮と日本が戦争状態と言うのは正しくないと、これまた当然とはいうものの正しい指摘で一蹴されてしまった(苦笑)。拉致について、わざわざ日本の戦国時代を持ち出すのも日本サゲ以外に意味不明である。
続いて、またもや朝日OB伊波新之助氏。拉致自体の話ばかりで著書の話が出ないので「あとは下[の階の書店?]で買って本を読みます」。いきなりギャグを咬ましたつもりのようなのだが、読まないで質問しているのを堂々開陳するのもどうなのか(笑)。そのあとも、ひどい。わたしは1985年に、北朝鮮が拉致を行なった可能性が高いと紙面で大きく報じたのだが、同紙の論説含めフェイクニュース扱いされた、うんぬん。「わたしの記事」連発、恨み節だか自慢だか。司会者に「意見ということでよろしいですか」とたしなめられ、あげく最後に教授:「1978年に産経の阿部(雅美)さんも同じようなことを書いていた」。これほど鮮やかなオチもちょっとないだろう(苦笑)。
横田めぐみさんを「度忘れ」しつつ質問に立つ毎日・倉重記者(衆院選党首討論会での総理への質問で炎上した倉重篤郎編集委員?)。著者にめぐみさんに関する情報があったとしても、この会見まで隠している筈はない、あるいは公開できないのであれば、この場でも答える筈はない。教授は意図的にくだらない質問をして多くの回答を引き出すテクニックについて語っていたのだが、これをさっそく実践したというのか(笑)。教授:帰国した被害者が、ほかに誰が生きているかを知っている可能性は低い(「知っているという人は嘘をついている」)。蓮池氏がすべて語ったとはおもわないが、氏も同様(知らない)であろうと。
(少なくとも質問関連部分は)読んで臨んだと明言する読売・河野博子編集委員(三紙編集委員そろい踏みですな)の、家族会の「情報コントロール」についての質問に対しては、元共産党員の「戦後日本史そのもの」佐藤勝巳氏の「情報操作の天才」に言及するにとどめた。中帰連のプロパガンダなど思い出したが、当方未読ということもあり(「外部の人間に理解しがたい」)「日本のジャーナリズムの社会的文化的ダイナミクス」というのは、なにを言わんとしているのかよくわからなかった *8 。
よど号ハイジャック犯とのディールは…??。最後の、北は米韓、日韓のあいだにくさびを打ち込もうとしているという指摘は地上波テレビなどではあまりお目にかからないもっともな指摘。(逆にマスコミが大好きな)「対話」などという甘言に惑わされてはいけないと米大統領をディスりつつ、ここでも安倍総理を持ち上げていた。なお教授の妻はコリアン・アメリカンらしい。
朝日・北野編集委員によるまとめ記事(2018年1月4日)ボイントン教授は、安倍(晋太郎)フェローシップ・プログラムの支援を受けていたようである(「北朝鮮による韓国・日本市民の拉致」、2009年)。
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(報道より)
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東京新聞(共同)(2018年5月6日)
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産経ニュース(2018年5月4日)
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NHKニュース(2018年5月4日)
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NHKワールド(2018年5月4日)
「拉致被害者家族、ニューヨークで助けを求める - ニュース - NHKワールド - 英語」 -
テレ朝news(2018年5月4日/4月30日)
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UPI(2018年5月3日)
「犠牲者は言う、トランプ、キムの首脳会談は、北朝鮮の人権侵害に対処しなければならない」 -
AP(2018年5月4日)
「オットー・ワームビアのおかあさんは今、北朝鮮を困惑させる声をあげている」 -
FOXニュース(2018年5月4日)
※ AP や UPI は拉致問題も含めて報じているが、各社転電は AP の見出しどおりワームビアさんのみ抜粋というのも多い。
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(外務省ホームページ)
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パネル・ディスカッション(2016年12月6日)配布資料(英語(PDF))
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(警察庁Webサイト)
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関連エントリ
2018年5月11日
*2:産経ニュース(2018年5月3日/共同転電)
*3:拉致問題対策本部「最新ニュース」(2016年4月28日)
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*6:ブルッキングス研究所「SK韓国講座(SK-Korea Foundation)」のチェア。著書に韓国の基地村売春問題を扱った “Sex Among Allies: Military Prostitution in U.S.-Korea Relations(同盟の中のセックス:米韓関係における軍隊売春)”(1997)がある。
*8:最初の方でと二度言及している。プライバシーうんぬんとも。機微に触れる問題なのだろうが、かつての「地上の楽園」(が地獄であることが分かってきても報じようとしなかったこと)に関する日本のマスコミ報道などについても示唆してるようにおもえるのだが。