dancept1の備忘録

答弁権のエソロジー

経済社会理事会NGO委員会:2019年1月定例セッションにおける特殊協議資格審査


あまりに中国の「台湾ガー」が目についたので、ちょっと集計してみた(苦笑)。下記エントリのように、今セッションでは新規 288 、前セッションまでの保留 233 の計 531 団体の特殊資格申請を審査し、236 に資格付与、265 が保留、20 団体をクローズとする理事会への勧告を含む報告を採択した。

(結果)

審査は一か国の委員からでも確認事項があれば「保留」となり、いわば各委員が拒否権を握っている。自国 NGO のチェックに忙しい国、反対に多くの団体に保留を出しながら自国 NGO の保留はゼロとなる中国、周辺国など対立国からの NGO への保留が目立つ国などなど。委員の面々は自国に都合の悪い組織を排除しようという態度を隠そうともしない(ように見える)。ここでは国別に集計してみただけだが、国連は各国の国益の主張の場であるということが(そんなことは常識だろうが)改めてよくわかる。

そのいっぽうエストニアエスワティニの保留コメント・ゼロというのもどうなのか。理事会で委員会の勧告を覆すことも可能なようだが(上掲エントリ参照)、アメリカがいくつかの国際機関について主張しているように、この委員会も機能不全に陥っていると言ってオーバーならば、少なくともあるべき姿からはほど遠い。さりとてアメリカが委員を降りれば中国のやりたい放題という感じである。「諸国民の公正と信義」はどこにあるのか(笑)。

(方法)

「国連会合報道およびプレスリリ-ス(Meetings Coverage and Press Releases)」ウェブサイト(英語)の当該会議要約 ECOSOC/6954-NGO/878 - 881, 883 - 885(上掲エントリ参照)から特殊協議資格審査の部分をコピペし表計算ソフトで集計。なお、いずれも「保留」となった NGO の内、三団体・三回の審査が会議要約に出身国の記載が見当たらなかった。いずれもとくに調査等は行なわず、そのまま「その他」の国に組み込んでいる。また、SLoCaT については中国ではなくオランダからの NGO とした(同上)。

1. NGO 国ごとの審査回数

まずは NGO 出身国別ののべ審査回数(件数)を、その結果で仕分けて集計してみた。円グラフは審査回数の NGO 出身国別の占有率(以下同様)。審査を受けた NGO の数ではなく 審査回数の集計である(すなわち、「保留」はセッション期間中に再度審査を受けられるので一部の NGO は複数回カウント)。「クローズ」となった NGO は審査を受けていないので含まれない。

NGO 出身国ごとの審査回数NGO 出身国ごとの審査回数占有率
図1 、NGO 出身国ごとの審査回数(n = 548)

アメリカからが最多で 94 回審査を受け、全体の 17.2 パーセントを占める。以下ナイジェリア 36 、インド 32 、イギリス 24 、パキスタン 23 回。パキスタンからの NGO はすべて「保留」。北朝鮮からの組織の申請は見当たらない( iCSO システムによれば現在登録されている NGO もないようである。「営利団体」というのは存在しないという建前なのだろう(?)が、かの国で「非政府」組織というようなものを立ち上げられるのかもよくわからんですが)。

続いて 図1 から審査をパスした件数を抜き出した(図2)。件数でソートし直しているので横軸の NGO 出身国は 図1 と異なる。こちらは一度パスすれば再度審査は受けないので会議要約や委員会報告草案のパスした NGO 数と一致する( 236 団体)。なにか分かりずらくなったが上述のカウントによる「保留」の占める割合もパーセントで示した(以上 図3 も同様)。

NGO 出身国ごとの審査通過件数(団体数)NGO 出身国ごとの審査通過件数(団体数)占有率
図2 、NGO 出身国ごとの審査通過件数(団体数)(n = 236)

アメリカからが最多で 40 件(団体)、全体の 16.9 パーセント。以下ナイジェリア 26 、スイス 11 、カナダ 10 、インド 9 件と続く。中国からは 5 件。日本からはスマート・ウィメンズ・コミュニティ(Smart Women’s Community Institute)とダイヤモンド・フォー・ピース(Specified Non-Profit Organization Diamonds for Peace)が通過。グラフ上では「その他」に入っているが韓国からはオープンネット(Open Net Incorporated Association)という団体のみ。中国および日本からの団体については上掲エントリ参照。

次に同じく「保留」となった審査の回数。上述のように一部 NGO は複数回カウント。

NGO 出身国ごとの審査保留回数NGO 出身国ごとの審査保留回数占有率
図3 、NGO 出身国ごとの審査保留回数(n = 312)

こちらもアメリカからが最多で 54 回、全体の 17.3 パーセントを占める。以下インド ・パキスタンが仲良く 23 、イギリス 17 、中国 14 回。図2 と比べるとさすがに「保留率」が上がってグラフが赤っぽくなった。件数の多いアメリカだが保留率 は 57 パーセントで、(グラフに入れていなかったが)全体の平均値も 57 パーセントでほぼ等しく(小数点四捨五入)、だいたい六割の審査は保留になっていた計算である。

で、この 312 回の審査はどの国(委員)からの指摘で「保留」となったのか。

2. 保留審査における審査国ごとのコメント回数

審査国(委員)の保留コメントを NGO 出身国で仕分けて集計した(図4)。横軸が委員19か国。縦軸は NGO 出身国で仕分けている。ひとつの審査で複数国がコメントして「保留」となっているケースがあるため合計数(340)は 図3 と一致しない。

保留審査における審査国(委員)ごとのコメント回数保留審査における審査国(委員)ごとのコメント回数占有率
図4 、保留審査における審査国(委員)ごとのコメント回数(n = 340)

やはり中国が 76 回でトップ、全体の 22.4 パーセントを占める。責任ある立場の諮問委員会委員として、国連協議資格 NGO に相応しい団体であるのか細かく精査しているのだな、などと受け取る御仁もいないであろう(笑)。少なくとも「中共目線で」を付け加えなければならない。以下インド 51 、キューバ 28 、ロシア 27 、アメリカ 25 回。上位の内訳もざっと眺めると、中国の 76 回の内 24 はアメリカからの NGO 、イギリスからも 8 、対してアメリカの 25 回の内 12 は中国から。インドの 51 回は自国 16 、パキスタン 13 、対してパキスタンの 24 回は インド 3 、自国 7 。キューバの 28回 はその内 9 がアメリカ、ロシアの 27 回にはアメリカ 5 、自国 4 。

中国からの NGO は、アメリカによるコメントで中国生物多様性保護与緑色発展基金会(China Biodiversity Conservation and Green Development Foundation)、中国慈善連合会(China Charity Alliance)、中華文化促進協会(Chinese Culture Promotion Society)、全球能源互連網発展合作組織(Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organisation)三回、絲綢之路国際総商会(Silk Road Chamber of International Commerce)二回、世界運河歴史文化城市合作組織(World Historic and Cultural Canal Cities Cooperation Organization)二回および友成起業家扶貧基金会(YouChange China Social Entrepreneur Foundation)二回、パキスタンによるコメントで関注婦女性暴力協会(Association Concerning Sexual Violence against Women)およびジャスティス・センター香港(Justice Centre Hong Kong Limited )の計14回/九団体。いずれも「保留」で今セッションを終えた(委員会報告草案による)。

韓国からは、ロシアによるコメントで北朝鮮人権市民同盟 (Citizens’ Alliance for North Korean Human Rights)およびドリーム・タッチ・フォー・オール(Dream Touch for All)、キューバによるコメントで北朝鮮人権データベース・センター(Database Center for North Korean Human Rights)および国際児童権利センター(International Child Rights Center)、中国によるコメントで NAUH、NKウォッチ(NK Watch)および朝鮮平和・再統一連帯(Solidarity for Peace and Reunification of Korea)のそれそれ一回ずつ七団体。いずれも「保留」で今セッションを終えている(同上)。NAUH は “New Action and Unity for Human Rights”(人権のための新たな行動・統一)ということらしく、こちらも北朝鮮かんれんの活動を行なっている *1 。日本からの NGO の審査は下記で。

3.「ひとつの中国」

さらに、図4 の中国の 76 件の保留コメントから「ひとつの中国」系のものを抽出してみた。

中国による審査保留コメントの内訳
図5 、中国による審査保留コメントの内訳(n = 76)

台湾への言及を含むコメントが 31 件、以下同様に、台湾およびチベット 6 、台湾および香港 2 、チベットが 4 で計 43 件、中国の審査保留コメントの半数以上( 57 パーセント)がこれらの内容である。いずれもウェブサイトなどで「正しい国連用語」を使用せよ、といった指摘。中国の “one-China policy” に則った用語を使用しないと特殊協議資格は取得できず、取得した際にはこのポリシーを認めたとこうなる。ウェブサイトであればヒューマニスト・インターナショナルのように「国連認定 NGO として国連用語を使用する必要がある」等の但し書きを入れたりするのだろうが、チベットについて活動する団体などはそれすら耐えがたいだろう。下記はこの 43 件の保留コメントを受けた NGO の出身国別の内訳。ぐっと西欧諸国が増える感がある。

中国による審査保留「ひとつの中国」コメントの内訳
図6 、中国による審査保留「ひとつの中国」コメントの内訳(n = 43)

日本からの NGO への二件は、国際学生会議所(UNISC International)および日本YWCAYWCA of Japan)の審査一件ずつで、ウェブサイト上の台湾表記についてのコメント。以上、上掲のエントリも参照。


2019年4月18日

*1: