dancept1の備忘録

答弁権のエソロジー

第15回強制失踪委員会:総括所見公表に際しての日本政府の抗議書簡(慰安婦問題)


文書番号:(なし)

ノート:

  • 強制失踪委員会第一回対日審査総括所見(最終見解)CED/C/JPN/CO/1 に対する11月30日付の抗議書簡が外務省ホームページで公開された。総括所見公表の折に(例によって)ジュネーブの政府代表部が抗議を行なったと共同が報じていたが *1 、(存在していたとして)正式の抗議文書も公開するのは珍しい。第一回の審査であることに加え、強制失踪、すなわち強制連行に該当する/しないは慰安婦もんだいの根本でもあるということで(「リベラル派」が「広義の強制」に論点をずらしているのは置く)当然の措置か。「根本的な誤解と偏見に基づく一方的な内容」「適切な根拠が示されることもなく,このような言及を総括所見に含めることは極めて不適切」「委員会からの法的な根拠を明記した回答を求め」る、とかなり強い調子で「抗議」している。

  • が、それはこれまでのツケでもある。こんかいの「書簡」にしてから、まずは委員会への「抗議」が第一の目的というところで日本政府の立場を明確にするために抗議はしておく必要はあろうし、それを公開したのも良いのだが、「誤解と偏見」を解くための海外発信という点は意識されていないようである(少々穿って見立てれば「公開」自体は国内の「なかった派」向けのガス抜き)。英語原文 PDF がアップされているが、外務省ホームページには強制失踪委員会に関する英語版のウェブページは存在しないようであり、英語話者がこの文書にたどり着く手立ては(サイト内検索以外に)ほとんどない *2 。おそらく「抗議」文書は国連高等弁務官事務所のサイトにもアップされないだろう。そもそも外務省のウェブサイトが SOE 対策をやっているのか甚だ疑問だったりするのだが、外部の検索エンジンでひっかかるかも疑問である。 なにしろ発信不足。

  • 総括所見への立場を明確に示す文書がネットで「ひっかけられる」方がよいとは思われるものの、抗議書簡添付の「ファクトシート」の内容の方も(少なくとも慰安婦問題については)、会合で行なった説明の繰り返しで新味はない(2015年12月の日韓合意を追加した、朝日新聞の訂正などを引いて事実関係に関する反論を開始した2015年3月の拷問禁止委員会総括所見へのフォローアップ・コメントを踏襲するパターン)。委員たちはべつだん考えを変えることはなさそうである。それ以外に対して「誤解と偏見」を解くのに寄与するかといえばこちらもどうであろう。「1990年代初頭に日本政府が行った」調査の結果は、アジア女性基金(AWF)のサイトに公表されているとして URL を掲載しているのだが(日本語版 p. 2 、下記リンク先)、

    「文書庫 デジタル記念館:慰安婦問題とアジア女性基金調査結果というのは上掲リンク先の “Historical materials regarding the Comfort Women Issue(慰安婦関連歴史資料)” のことだろう。しかし肝心のこの資料集には英訳がない *3 。「本格的調査」が行なわれ、かつ「資料を隠蔽しているとの指摘は当たらない」だろうが、「軍や官憲によるいわゆる「強制連行」は確認できなかった」という主張は「確認」できない訳である(なお河野談話はじめ、(どのような内容であれ)「軍が関与した」ことを強調する英文資料は AWF の別資料で容易に確認できる)。審査会のエントリでもリンクしたが、いっぽうでこちらは英語版サイトに英訳も掲載されている外務省の「歴史認識」。「お詫びと反省の気持ち」を強調する2014年10月の下記である。グレンデール慰安婦像訴訟での日本政府意見書も、原文が英語にも関わらず英語版サイトには掲載しないというのも酷い(下記掲載外務省ホームページ/英語版リンク先参照)。いまだにクマワスラミ報告への反論書すら公開できないのもどうなのであろう。公開が困難なら最新の知見も付け加え別に作成し直してもよいではないか。外務省はこの際アーカイブ資料のきちんとした英訳含め慰安婦関連の英語版ページをあらたにつくり直すべきではなかろうか。

  • (「ファクトシート」p. 1 )

    慰安婦問題を含め,現在までに,強制失踪条約第12条に基づく「申立て」が日本政府に対してなされたことはない。

    審査会の事前課題リストへの返答  CED/C/JPN/Q/1/Add.1 からこのように回答している(英語版 p. 9 )*4 。日本政府を相手取って争われた訴訟もあるのだが、「強制失踪」としての「申立て」ではない、あるいは条約の効力発生前の事件あるいは裁判、あるいはそれらすべて、というところか。とにかく慰安婦は「強制失踪」ではないので、「強制失踪を構成する事件」の被害者としての慰安婦の国籍別を含むデータを提供されたし、という問い *5 にもこたえていない。というか論理的にゼロということなのだろうが、「強制失踪」で無く「慰安婦問題」として捉えれば有用なデータではある( AWF サイトにもあるようにじっさいには数ははっきりしないのだろうが、日本人が多くを占めたことは強調されるべきだろう)。

  • 十二条以外は関連エントリで掲載したが、以下一部条文再掲(外務省ホームページへのリンク先参照)。

    (第二条)「「強制失踪」とは、国の機関又は国の許可、支援若しくは黙認を得て行動する個人若しくは集団が、逮捕、拘禁、拉致その他のあらゆる形態の自由のはく奪を行う行為」

    この条約の適用上、「強制失踪」とは、国の機関又は国の許可、支援若しくは黙認を得て行動する個人若しくは集団が、逮捕、拘禁、拉致その他のあらゆる形態の自由のはく奪を行う行為であって、その自由のはく奪を認めず、又はそれによる失踪者の消息若しくは所在を隠蔽、かつ、当該失踪者を法律することを伴いその保護の外に置くものをいう。

    (第十二条)「強制失踪の対象とされたと信ずるに足りる合理的な理由がある場合」「正式な申立てがなされていないときであっても、調査を行う」

    1 締約国は、ある者が強制失踪の対象とされたと訴える個人がその事実を権限のある当局に報告する権利を有することを確保する。当該当局は、申立てを迅速かつ公平に検討し、及び必要な場合には十分かつ公平な調査を遅滞なく行う。必要な場合には、申立てを行った者、証人、失踪者の親族及びその弁護人並びに調査に参加する者を当該申立て又は証拠の提供の結果生ずるすべての不当な取扱い又は脅迫から保護することを確保するために適当な措置をとる。

    2 ある者が強制失踪の対象とされたと信ずるに足りる合理的な理由がある場合には、1に規定する当局は、正式な申立てがなされていないときであっても、調査を行う。

    3 締約国は、1に規定する当局について次のことを確保する。

    (a) 調査を実効的に行うために必要な権限及び財源(調査に関連する文書その他の情報を入手する機会を有するためのものを含む。)を有していること。

    (b) 拘禁されている場所その他失踪者が所在していると信ずるに足りる合理的な理由のある場所への立入りが認められていること。司法当局の事前の許可が必要とされる場合には、当該司法当局は、速やかにその事案についての決定を行う。

    4 締約国は、調査の実施を妨げる行為を防止し、及びこれについて制裁を科するために必要な措置をとる。締約国は、特に、強制失踪犯罪の容疑者が、申立てを行った者、証人、失踪者の親族若しくはその弁護人又は調査に参加する者に対する圧力又は脅迫行為若しくは復仇行為という手段によって調査の進展に影響を及ぼすことがないことを確保する。

    (第三十五条)「当該国が負う義務は、この条約が当該国について効力を生じた後に開始された強制失踪に関するものに限る」

    1 委員会は、この条約の効力発生後に開始された強制失踪についてのみ権限を有する。

    2 この条約の効力発生後にいずれかの国が締約国となる場合には、委員会に対して当該国が負う義務は、この条約が当該国について効力を生じた後に開始された強制失踪に関するものに限る。

  • (外務省ホームページ)強制失踪委員会による総括所見の公表に際しての岡村善文政府代表による同委員会委員長宛の書簡(英文(PDF)/仮訳(PDF))及びファクトシート(英文(PDF)/仮訳(PDF))-「強制失踪委員会による対日審査総括所見の公表に際しての岡村政府代表発ジャニーナ委員長宛書簡」「強制失踪委員会による対日審査総括所見に関する日本政府の立場(ファクトシート)」

    強制失踪条約第1回政府報告審査に関する強制失踪委員会の総括所見(英文(PDF )/仮訳(PDF))-「強制失踪に関する委員会 条約第29条(1)に基づき日本により提出された報告書に対する総括所見」

    強制失踪条約第1回政府報告審査における岡村善文政府代表の冒頭ステートメント(英文(PDF))(2018年11月)-「強制失踪条約第1回日本政府報告審査 岡村善文日本政府代表団長による冒頭ステートメント

    事前質問に対する回答(和文仮訳(PDF)/別添1(PDF)/別添2(PDF))-「強制失踪条約第1回日本政府報告審査:質問票(LOI)への回答」

    第1回政府報告に関する強制失踪委員会からの事前質問(LOI; List of issues)(仮訳(PDF))-「強制失踪条約第29条1に基づく日本政府報告書に関する質問票(LOI)」

    第1回政府報告(和文テキスト・別添(PDF)/英文テキスト(PDF)/英文別添(PDF))-「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約(強制失踪条約)第29条に基づく第1回日本政府報告」

    条文 和文テキスト(PDF

  • (外務省ホームページ/英語版)

    「歴史問題」

  • 国連人権高等弁務官事務所ホームページ(英語))

    • 「条約機関の国々」
      日本の報告状況(英語
      CED - 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約:

    • 「条約機関セッション」
      CED - 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約
      第15回セッション(2018年11月5日 - 2018年11月16日)(英語
      作業プログラム(PDF
      日本:

      総括所見:CED/C/JPN/CO/1(先行未編集版)(2018年11月19日)(PDF)-「強制失踪に関する委員会 条約第29条(1)に基づき日本により提出された報告書に対する総括所見」

      要約記録:CED/C/SR.258(2018年11月14日)(html)-「強制失踪に関する委員会 第十五回セッション 258回会議要約記録」/CED/C/SR.257(2018年11月23日)(html)-「強制失踪に関する委員会 第十五回セッション 257回会議要約記録」

      声明:代表団代表による開会声明(2018年11月5日)(PDF)-「日本国政府表日本国外務省人権担当特命全権大使、岡村善文閣下による強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約第29条(1)に基づき締約国により提出された報告書の審査開会声明」

      代表団/代表者リスト:(2018年10月23月)(PDF)- MT-UN455

      課題リストへの返答:附属書(2)(2018年9月28日)(Excel

      課題リストへの返答:附属書(2018年9月28日)(Word

      課題リストへの返答:CED/C/JPN/Q/1/Add.1(2018年9月24日提出/2018年9月25日発行)(PDF)-「条約第29条(1)に基づき日本から提出された報告書に関する問題リスト 補遺 課題リストへの日本の返信」

      課題リスト:CED/C/JPN/Q/1(2018年7月22日)(PDF)-「条約第29条(1)に基づき日本から提出された報告書に関する課題リスト」

      市民社会組織からの情報(セッション用):日弁連(2018年6月22日)(PDF)-「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約第29条(1)に基づく最初の日本審査に関する日本弁護士連合会報告」

      市民社会組織からの情報(セッション用):日本による軍事性的奴隷制度に徴用された女性のための韓国協議会[挺対協](PDF)-「強制失踪に関する委員会(CED) 15回セッション(2018年11月5日 - 11月16日)、日本」

      市民社会組織からの情報(セッション用):アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館(wam)(2018年11月22日)(PDF)-「日本の軍事性的奴隷制度問題(いわゆる「慰安婦」問題)」

      締約国報告:CED/C/JPN/1(2016年7月22日提出/2016年8月25日発行)(PDF)-「条約第29条(1)に基づき締約国により提出された報告書の審査 2012年予定の締約国報告書 日本」

      報告への付属書:附属書1 強制失踪犯罪に関連する刑法(抜粋)(PDF
       -「附属書1 強制失踪犯罪に関連する刑法(抜粋)」
       -「附属書2 出入国管理及び難民認定法(仮訳)(1951年10月4日政令第319号)」
       -「附属書3 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律(抜粋)」
       -「附属書4 刑事訴訟法(抜粋) 」
       -「附属書5 逃亡犯罪人引渡法(抜粋)」

  • 関連エントリ

  • 掲載URL:
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/shissou/index.html


2018年12月4日
2019年4月21日(外務省ホームページ更新反映)

*1:関連エントリ 2018-11-16 参照。

*2:ちなみに現時点で総括所見は原文英語版のみ掲載。[追記]3月1日の更新で仮訳が追加されたので、その他の追加分も含め外務省ホームページへのリンクに反映した。下記は12月4日のウェブ・アーカイブまた、強制失踪委員会の英語版ページも追加されたようである(2019年2月22日)。

*3:五巻にたどり着けば米軍資料は英語だが。

*4:国連人権高等弁務官事務所ホームページへのリンク先参照。外務省仮訳は公開されていない。[追記]その後外務省ホームページに仮訳が掲載された。通常、英語原文も掲載するのだが、そちらは英語版ページにのみ掲載( *2 追記参照)。

*5:同上、CED/C/JPN/Q/1 、パラグラフ5。