dancept1の備忘録

答弁権のエソロジー

拉致問題解決のための国際協力に関する国連シンポジウム


文書番号:(なし)

ノート:

  • 日本側からの発言内容については下記掲載各サイトのリンク先参照。

  • 故オットー・ワームビア(Otto Warmbier)氏の身柄に関する米朝政府間交渉における「身代金取引」についてが報じられた後 *1 、母親のシンディ氏が公に発言/この件に言及ということで、アメリカでは前の週開催されたハドソン研究所セミナーの方に注目が集まったようだ。ここでもおもに(タイトルとは裏腹に)そちらの方をとり上げることにする。

  • 国連シンポジウム(2019年5月10日)

    「グローバルな課題としての拉致問題の解決に向けた国際連携」と題され、昨年同様ニューヨーク国連本部カンファレンスルーム6で開催された。昨年はオーストラリアおよび韓国政府も加わっていたのだが *2 、下記によれば日本、アメリカ政府ならびに EU 代表部の共催。が、UN Web TV で確認出来るとおり、内閣官房拉致問題対策本部「ニュース」(下記掲載リンク先参照)では昨年から韓国を除いた「日本、米国、豪州、EU の共催」としている。そういえば下記 *3 は共催者(や参加者)名のフォントの調子が異なり修正されているようにも見える(シンディ氏もパネル不参加)。

    Symposium on International cooperation to resolve the abductions issue as a global issue

    家族会・救う会拉致議連による訪米団が出席。別所浩郎・国連日本政府代表部特命全権大使の開会挨拶で始まり、訪米中の管官房長官拉致問題担当大臣 *4 が基調講演を行なった。モデレーターに昨年も訪米団が面会していた *5 北朝鮮人権委員会(HRNK)のグレッグ・スカラトウ(Greg Scarlatoiu)事務総長 *6

    昨年に続いてとなる横田哲也・拉致被害者家族連絡会事務局長、飯塚耕一郎・同事務局次長、オットー氏の父親フレッド・ワームビア(Fred Warmbier)氏に加え、吉見美保・特定失踪者家族会幹事、デイヴィッド・スネドン(David Sneddon)氏の兄ジェームズ(James Sneddon)氏、アノチャ・パンチョイ(Anocha Panchoi)氏の甥バンジョン(Banjong Panchoi)氏がスピーチを行なった。

    International cooperation to resolve the abductions issue as a global issue

    後半の専門家パネルには昨年に続いての西野純也・慶大教授、ブルッキングス研究所からは元アメリ国務省東アジア・太平洋局第一副次官補のエヴァンズ・J・R・リヴィア(Evans J. R. Revere)シニアフェロー、さらにはイ・ジョンフン(Jung Hoon Lee)元韓国外交部北朝鮮人権国際協力大使が参加した。

    質疑では西岡力救う会会長が、1991年に日本人拉致を指摘した論文を発表したところ脅迫された経験なども含め北朝鮮の嘘について発言。ジョアン・ペドロ・ヴァレ・デ・アルメイダ(João Pedro Vale de Almeida)国連 EU 代表部特命全権大使に続いてティーガン・ブリンク(Tegan Brink)国連オーストラリア政府代表部次席代表大使、ジョナサン・R・コーエン(Jonathan R. Cohen)国連アメリカ政府代表部次席代表大使が発言して会合を締めくくった。

    ( UN Web TV )
     「グローバルな課題としての拉致問題の解決に向けた国際連携」

     ※ 出席者全員(?)ブルーリボンバッジを着けている。

  • ハドソン研究所セミナー(2019年5月3日)

    ( ハドソン研究所)*7
     「イベント - 北朝鮮拉致問題に関するセミナー - 五月 - 2019年」(※ 上記でアップされた動画は日本語発言をそのまま収録)

    ワシントンのハドソン研究所本部において同研究所、日本政府および北朝鮮人権委員会(HRNK)の共催。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)のニック・エバースタット(Nick Eberstadt)政治経済分野ヘンリー・ウェント・チェアー、左藤章内閣府副大臣、グレッグ・スカラトウ氏およびハドソン研究所のケン・ワインスタイン(Ken Weinstein)所長兼 CEO がイントロダクションを行なった。

    パネル1「拉致被害者およびその他の事件の家族からの声明」(モデレーター/エバースタット氏)に、1969年大韓航空拉致被害者家族協会のファン・インチョル(Hwang Incheol)代表、飯塚耕一郎氏、マイケル・スネドン氏、シンディ・ワームビア氏および横田拓哉氏が参加。

    Seminar on the North Korean Abductions Issue

    パネル2「参加者からの声明」(モデレーター:ハドソン研究所/ルイス・“スクーター”・リビー(Lewis "Scooter" Libby)上級副所長)に、古屋圭司拉致議連会長、ルシ・アーヴェセス・グリフィス(Luci Arveseth Griffiths)クリス・スチュワート共和党下院議員 *8 事務所立法シニアアドバイザー、メラニー・カークパトリック(Melanie Kirkpatrick)ハドソン研究所シニアフェロー、トム・ローズ(Tom Rose)副大統領シニアアドバイザーおよびマイケル・シファー(Michael Schiffer)上院外交委員会民主党シニアスタッフ(元東アジア担当次官補代理)が参加した。

    古屋議員の声明などやり取りから

    本日のこのセミナーの目的は、できるだけ多くのアメリカ人に拉致問題を認識してもらい[…]

    残念ながら米国メディアの注目はシンディ氏の発言に集まったようだ。国連日本政府代表部が国連シンポジウムの方(さえ)も含めなにも発信しない(現時点)のもどうかとおもう。せっかく被害者家族が渡米しているのだから政府予算で事前に TV のニュース枠でも買い取れないものか。

    我々は強いメッセージを金正恩委員長に送りたい。拉致の責任者は金正日であり、息子の金正恩は関与していなかったことをここで強調したい。

    これは日本側としては交渉のポイント足り得るとしたいところだが、米側にはあまり刺さっていないかんじである。核開発やワームビア事件など北の政権はひっくるめて嘘をついてきたと。

    朝鮮中央通信からの報道によれば、北朝鮮は連日日本を批判しており、それは現在北朝鮮の国内環境が非常に厳しいに違いないということを意味する。最近北朝鮮を訪問した人物からこれを聞いたが、どうやら平壌の高級ホテルには外国人のための十分なパンさえない。北朝鮮が現在非常に批判的であるということは、日本からの支援を望んでいるということです。しかしそれはつねに使用している手口[modus operandi]であり、可能な限り多くのものを得るために、わずかな譲歩をすることを意図していることを意味する。これがその手法であることは、核・ミサイル問題と米国首脳会議でのそれらの議論の文脈両方においても明らかです。

    (以上古屋議員)。おそらくそうなのだろうがアメリカ側の見方は厳しい。パネル終了後の質疑で西岡力救う会会長が、予想される安倍氏と正恩氏の直接協議において残る拉致被害者は死亡したというのは嘘だと認めさせるにはどうすればよいかアドバイスをモデレーター両氏に求めた。「西岡先生[sensei]、私は外交官としての安倍首相の素晴らしいスキルをよく知っています」と切り出したリビー上級副所長 *9

    繰り返し嘘をついた人物のこの厄介な状況にどう対応するかについて彼にアドバイスを提供しようとは思わない。

    と明言せず、日本側の思い(?)とは裏腹に正恩氏を単に「繰り返し嘘をついた人物」と表現。

    しかし、私は彼らが互いにテーブル越しに相対したとき、真実が何であるかをそれぞれが知っていると確信している。

    (ここで古屋議員がリビー氏に同調して西岡氏に対し安倍総理の外交手腕を考慮すべきと指摘したりしているが、)もう一人のモデレーターのエバースタット氏に代わって(?)私も安倍首相にアドバイスするつもりはない、と切り出したカークパトリック・シニアフェローも悲観的:

    指摘できるとすれば、ひとつに安倍氏がこの問題に熱心であるということです。彼は一週間前ワシントンにいました。トランプ大統領との会談の写真を見ると、襟に小さな青いピン[ブルーリボンバッジ]を付けているのに気付くかもしれない。[…]しかし——そして私はその情熱とその信念を賞賛します。しかし、私は金正恩との会談が成功することには懐疑的だと言えるでしょう。過去、我々は、北朝鮮が嘘をつき、言い逃れしていたことを知っています。誤った遺骨、偽の遺骨を送り返してきさえした。それで、西岡さん、あなたに申しましょう、この会議が終わったら、日本は失敗に備えておく必要があると思います。

    失敗に備えるというのはありがたい指摘だが、要するにハドソンのメンバーにもとくに知恵はないと。というか交渉前に手の内を晒すようなことを公の場で述べるのかどうかというのもあるか。最後に被害者が最も多いのは韓国人であることに言及した後、エバースタット氏:

    この政府からは——韓国の現政権からは、大部分が自称人権活動家で構成されているので、彼らがここで私たちの共通の目標に加わる場所を見つけることを望めるかもしれない。

    一瞬、米国の保守系シンクタンク北朝鮮専門家がこの認識でだいじょうぶか?とおもったりしたが、これは韓国政府への皮肉ですね *10 。前述のとおり韓国政府は国連シンポジウムの共催を取りやめている。

    シンディ・ワームビア氏

    良い悪いではないが、感情を露わにするシンディ氏と日本の被害者家族とでは対照的な印象を受ける。メディアが伝えるシンディ氏の様子からそのような印象を受けたのだが、その後会合記録を見てみると自身も以下のように発言していた(パネル1)。

    私は日本の高官と非常に抑制され高潔な家族全員に会えて本当に感謝しています。すみません、私は同じようには抑制を示せません。でも彼らは私を許してくれるとおもいます。

    以下は発言の最後のセンテンス。北朝鮮を強く非難する文脈。ワシントン・ポストや毎日などの論調(メディア報道参照)には違和感がある。

    今進行中の茶番があります。それは外交と呼ばれています。真実を言うことのない人物とどうやって外交ができるのか?。それが私が知りたいことです。私はそれを支持しますが、非常に懐疑的です。彼は嘘をつく、嘘をつく、嘘をつく——すべて自分のために。そして彼の政権——ああ、それを政権と呼ぶことができるなら——彼らは自分たちについてだけを気にしている。彼らは強制収容所にいる人々全員について気にしない、気にしないのです。それらは私には[旧ソ連の矯正労働収容所]グーラグではないのです。それらは強制収容所です。ヒトラーと彼の唯一の違いは、彼が自分の全国民に対してと、他国民に対しても行なっているということです。オットーは、いつも強いことで私を誇りに思っていたので、私は強くなります。 彼は私が知っていたもっとも強い子でした。ありがとうございました。
  • 救う会ウェブサイト「メールニュース」)

  • (特定失踪者家族会 - 特定失踪者問題調査会サイト)

  • 内閣官房拉致問題対策本部

    • シンポジウムの概要 -「拉致問題に関するシンポジウム(日本、米国、豪州、EU共催)」(PDF
    • 講演原稿 -「ニューヨークシンポジウム(基調講演)」(PDF

  • (メディア報道より)

    • 共同通信(2019年5月4日)

    • 毎日新聞(2019年5月4日)
      ※ シンディ氏の発言もフォロー。

    • 産経ニュース

      (2019年5月4日)(2019年5月11日)

    • AFP(2018年5月4日)
      ※ シンディ氏:「私にとって北朝鮮は地球のがんだ。私たちが無視したら、このがんが消え去ることはない。全員が死ぬことになる」「息子は実際に悪魔を見た。悪魔と共にいたのだ」。

    • 大紀元(2018年5月7日)
      ※ かなり詳細。

    • NHK ニュース

      (2019年5月10日)

      (2019年5月11日)

      NHK ワールド/2019年5月11日)
       ※ 上のニュースの内容(ウェブアーカイブ不可)。

       「管、北朝鮮との相互不信を終わらせることを求める」

      Suga calls for end to mutual distrust with N.Korea

      Suga calls for end to mutual distrust with N.Korea

      Japan

      Saturday, May 11, 10:08

      Chief Cabinet Secretary Yoshihide Suga has called for an end to the mutual distrust between Japan and North Korea, and urged the countries to start afresh.

      Suga was speaking at a symposium hosted by the Japanese government in New York to boost international awareness about the abduction of Japanese nationals by North Korea.

      Suga is minister in charge of the abduction issue. He said Japan is doing its best to take the initiative on the issue and bring all of the abductees home.

      He added that the Japanese government's policy toward the North, which involves comprehensively resolving the matter of the abductions as well as the nuclear and missile issues, is unchanged.

      The chief cabinet secretary said the government will continue trying to resolve issues from the past, and to normalize ties with North Korea.

      He said North Korea can enjoy a bright future with its natural and human resources if it takes the right path, and that Japan is willing to help the North realize this potential.

      Suga added that Prime Minister Shinzo Abe has repeatedly said he is determined to meet North Korean leader Kim Jong Un in person, without preconditions.

      He said the countries are at an important juncture, and it's vital that they seize the opportunity to act.

    • 時事通信(2019年5月11日)

    • 日本経済新聞(2019年5月11日)

    • TBS(2019年5月11日)

    • 読売新聞

      (2019年5月12日)ジャパン・ニューズ(読売英語版)(2019年5月13日)

      拉致問題解決のために重層的日米協力欠かせない」

    • ワシントン・ポスト(2019年5月3日)
      ※ そのほかの被害者や、なんのイベントでの発言かについても言及なし(他の米国 TV メディアなども概ね同様)。

      「オットー・ワームビアの母親、北朝鮮との米国外交を「茶番」と呼ぶ」

    • CBS ニュース(2019年5月3日)

      「オットー・ワームビアの母親、北朝鮮への圧力継続を求める」

    • ABC ニュース(2019年5月3日)

      「オットー・ワームビアの母親、北朝鮮との外交を「茶番」と呼ぶ」

    • FOX ニュース(2019年5月3日)

      「オットー・ワームビアの母親、北朝鮮は「地球のがん」と言い、外交を「茶番」と呼ぶ」

    • 聯合ニュース(2019年5月4日)
      ※ こちらも見出しのとおり主にシンディ氏関連。

      「米国抑留者の母親、北朝鮮に対する継続的圧力求める」

    • ブルームバーグ(2019年5月11日)

      「日本、アメリカ、国連サイドイベントで北朝鮮拉致問題を強調」

    • ジャパンタイムズ(2019年5月11日)

      「国連スピーチで菅義偉官房長官拉致問題を「グリーバルな課題」ととらえ直す」

  • (外務省ホームページ)

  • 国際連合日本政府代表部

  • 警察庁Webサイト)

  • 法務省ホームページ「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」)

  • 関連エントリ

    (人権理事会)

    (東京での国際シンポジウム)

    (昨年のシンポジウム)

    (国連調査委員会の報告)


2019年5月16日

*1:CNN(2019年4月26日)

ロイター(2019年4月26日)

*2:関連エントリ 2018-05-03 参照。

*3:モデレーターとして参加のグレッグ・スカラトウ氏が事務総長を務める北朝鮮人権委員会(HRNK)ウェブサイト掲載。

「イベント - 北朝鮮人権委員会

*4:このような憶測も流れていた(中央日報/2019年5月3日)。

*5:関連エントリ 2018-05-03 注2 および同 2014-02-07 注20 も参照。

*6:ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿(2018年10月2日)。

2018年米朝首脳会談前の NHK インタビュー(2018年6月5日、6:36 - )

TBS『報道特集』インタビュー(「アメリカの北朝鮮支持者たち」、2018年5月19日、22:26 - ):「トランプ大統領北朝鮮の人権問題をとり上げることになったその裏」の「仕掛人」(表は日本の総理というところだがとうぜんながら言及せず)。

*7:昨年10月のイベントではペンス副大統領による、おそらく歴史的となる(?)演説も行なわれていた。

「イベント - マイク・ペンス副大統領の中国に対する政権政策に関する演説 - 10月 - 2018年」(ハドソン研究所)(海外ニュース翻訳情報局/2018年10月9日)

*8:スネドン決議案の提出者(産経ニュース/2016年9月29日)。「日本側では元拉致問題担当大臣古屋圭司衆議院議員が米側上下両院に決議案の提出と採択を一貫して訴えてきた」。日本人などの拉致についての決議もあってよいのではないか。像の設立運動をしろとは言わないが。スチュワート議員はこの三月に立ち上げられた現在の脅威:中国委員会(CPDC:Committee on the Present Danger: China)の第一回円卓会議にも参加していた。

「「現在の脅威:中国委員会」、共産中国が引き起こした脅威に関する議会円卓討論会を主催」(CPDC/2019年4月10日)

(JBpress/2019年5月8日)

*9:ブッシュ・ジュニア政権時代チェイニー副大統領の首席補佐官を務めイラク戦争を強硬に主張したガチガチのネオコンである。イラク戦争に絡むプレイム事件で FBI に虚偽供述をしたとして有罪判決となっていたが、昨年恩赦を与えられていた。(AFP/2018年4月14日)上掲コトバンク(『現代外国人名録2012』)には「1969年エール大学在学中に来日以来、数多く来日、日本の文学作品を広範に読んだ。’96年日本の雪国を舞台にしたミステリーロマン風の小説「アプレンティス(年季奉公人)」を発表、大手雑誌の書評などで称賛された」とあるが、明治時代の日本を舞台にした「性的逸脱」についての表現には批判もあるようだ。谷崎でも読んだのか。

*10:エバースタット氏は、一部で「今さら?」と話題になった下記でもモデレーターを務めていた(朝鮮日報/2018年12月16日)。

「韓国における開かれた社会とその敵:右派権威主義から——左派へ? - AEI 」(アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所)www.aei.org