dancept1の備忘録

答弁権のエソロジー

福島:日本は核廃棄物処分に関する人権義務を無視してはならない – 国連専門家


文書番号:(なし)

ノート:

  • 国連人権高等弁務官事務所ホームページ「プレスリリース」(英語)より。

  • 「COVID-19は、人々や地球に何世代にもわたって深刻な影響を与えるであろう決定から注意をそらすための手品として使用されてはならない」。「使用されている」と断言はしていないが、そのような印象を与える。政府が「放射性廃水の海洋への放出についてのタイムラインを加速させたとの報告」があったということらしい *1 。その上で、「もともと2020年のオリンピック後までは公開協議は行なわれないと予想されていた」としているが、後述の特別報告者による「情報提供要請」に対する外務省「回答」によれば、「直近では[、COVID-19 対策前の]2019年12月に改訂している[…]中長期ロードマップに掲げた汚染水対策に関する目標が修正された事実はない」(日本語仮訳 p. 7)。

  • 「先住民の権利」にも言及 *2 。日本への移住者が事故を起こし、先住民の権利を侵害したという図式か。面妖。

  • 6月12日、外務省から下記の発表があった。特別報告者による「情報提供要請」に対し、当プレスリリース後に「回答」したということらしい。

    • 「国連人権理事会特別手続による共同コミュニケーションに対する日本政府回答」(2020年6月12日)(英文(PDF)/仮訳(PDF

    • AL JP N 1/ 2020「有害物質及び廃棄物の環境面での適切な管理及び廃棄の人権への影響に関する特別報告者、食糧の権利に関する特別報告者、平和的集会及び結社の自由に対する権利に関する特別報告者、並びに先住民族の権利に関する特別報告者のマンデート」(2020年4月20日)(英文(PDF)/仮訳(PDF

    福島に関する前回の懸念表明に対しては「回答を作成中」に「一方的な申立てに基づき,不正確な内容を含む報道発表を発出した」としていた。プレスリリースの三日後に回答するくらいならさっさとと回答するなり、あるいは回答時期に関する先方との「コミュニケーション」などどうなっているのであろうか。ただし「情報提供要請」には「今回の公開協議のための短い延長」や「タイムラインを加速させた」としていることに関する直接の質問はない。以上関連エントリ 2018-10-25、2018-08-16 も参照。

  • なお、同じく12日には、経産省が処理水の取り扱いに関する意見募集の再延長を発表した(後述のメディア報道も参照)。

  • 前述の「情報提供要請」は、下記朝日新聞社説(2018年10月9日)に言及し「汚染水」の放出に関する懸念を表明している。

    「処分法の検討は振り出しに戻った」とした朝日社説に対し、東電によれば「処理水」の保管は、放出前に再度「二次処理」を行なうのを前提に開始した、ということのようなのだが、これに関する「情報の提供」についての反省の弁(2018年10月1日)が下記に採録されている(p. 2)

    「汚染水処理対策委員会 第 10 回多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 議事概要」(PDF

    〇残留核種の問題は、タスクフォースから参加していた委員は当然のこととして認識していたと思う。その点、小委員会から参加した委員とは認識のかい離があったと思う。

    〇処理水については国民の関心事。情報の提供が不十分だったとのことだが、国民の関心事として十分認識していなかったことは残念。また、この小委員会で、トリチウムがほとんどであるという理解で議論していたが、トリチウム以外の核種が風評被害に影響があるのは当然。これらが含まれていることを知っていた東電はどういった形で、小委員会の議論をご覧になってきたのか。
    ⇒認識に差があり、国民の皆様の関心事を十分に理解できていなかったのだと思っている。発電所に目が行きがちで、敷地境界の線量を守ることにとらわれていた。もっと、関心を持つべきだったと反省している。

    ロイターは、「東電はこれまで浄化装置を使った汚染物質の除去作業で、トリチウム三重水素)を除く放射性物質が、原子力規制委員会の定めた基準値未満になっていると繰り返し説明してきた」と報じている(2018年10月12日/東洋経済オンライン)。「基準値未満」というのは、上で抜粋した東電のいう「敷地境界の線量」の「基準値」のことではないか。承知の上で書いているとすれば悪質な切り取り。

  • (メディア報道より)

    共同通信(2020年6月9日)[Infoseekニュース]

    朝日新聞(2020年6月12日)

    ※「汚染水」

    毎日新聞(2020年6月12日)

    ※「汚染処理水」

  • 経産省ウェブサイト)

  • 関連エントリ

    (総会第四委員会)

    (総会第三委員会)

  • 掲載URL:

    https://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=25940&LangID=E


Fukushima: Japan must not ignore human rights obligations on nuclear waste disposal – UN experts
福島:日本は核廃棄物処分に関する人権義務を無視してはならない – 国連専門家

GENEVA (9 June 2020) – UN human rights experts* today urged the Japanese Government to delay any decision on the ocean-dumping of nuclear waste water from the reactors at Fukushima Daiichi until after the COVID-19 crisis has passed and proper international consultations can be held.
ジュネーブ(2020年6月9日)– 国連人権問題専門家 * は本日、COVID-19危機が去り適切な国際協議が行なわれるようになるまで、福島第一原発からの原子炉廃水の海洋投棄に関するいかなる決定も遅らせるよう日本政府に強く促した。

"We are deeply concerned by reports that the Government of Japan has accelerated its timeline for the release of radioactive waste water into the ocean without time or opportunity for meaningful consultations," the independent experts said. Credible sources indicate the postponement of the 2020 Olympics enabled the Government's new decision-making process for release of the waste.
「我々は、日本政府が有意義な協議の時間や機会​​なしに放射性廃水の海洋への放出についてのタイムラインを加速させたとの報告を深く懸念している」と独立専門家は述べた。信頼できる情報筋は、2020年のオリンピックの延期により、廃棄物の放出についての政府の新しい意思決定プロセスが可能になったことを示している。

They said the Government's short extension for the current public consultation was grossly insufficient while COVID-19 measures limited opportunities for input from all affected communities in Japan, as well as those in neighbouring countries, including indigenous peoples.
彼らは、COVID-19対策が、日本において影響を受けるすべてのコミュニティや、同様に先住民を含む、近隣諸国における人々からの情報提供についての機会を制限したいっぽう、同政府の今回の公開協議のための短い延長は極めて不十分だったと述べた。

"COVID-19 must be not be used as a sleight of hand to distract from decisions that will have profound implications for people and the planet for generations to come," the experts said. "There will be grave impacts on the livelihood of local Japanese fisher folk, but also the human rights of people and peoples outside of Japan."
「COVID-19は、人々や地球に何世代にもわたって深刻な影響を与えるであろう決定から注意をそらすための手品として使用されてはならない」と専門家は述べた。 「地元の日本人漁業者の生計に重大な影響が及ぶだけでなく、人々や日本国外の人々の人権にも深刻な影響があるであろう」。

They said there was no need for hasty decisions because adequate space was available for additional storage tanks to increase capacity, and the public consultation originally was not expected to be held until after the 2020 Olympics.
彼らは、容量を増やすための追加貯蔵タンクのための十分なスペースが利用可能であったため性急に決定する必要はなく、もともと2020年のオリンピック後までは公開協議は行なわれないと予想されていた、と述べた。

"We call on the government of Japan to give proper space and opportunity for consultations on the disposal of nuclear waste that will likely affect people and peoples both inside and outside of Japan. We further call on the Government of Japan to respect the right of indigenous peoples to free prior and informed consent and to respect their right to assemble and associate to form such a consent."
「我々は、日本政府に対し、日本の内外の人々に影響を与える可能性のある核廃棄物の処分に関する協議のための適切なスペースと機会を与えるよう要請する。我々はさらに、日本政府に対し、自由な事前のインフォームド・コンセントならびに、そのような同意を形成するための集会および結社に対する先住民の権利を尊重するよう要請する」。

The experts have communicated their concerns to the Government of Japan. UN experts have previously raised concerns over the increase of exposure levels to radiation deemed "acceptable" for the general public, and for the use of vulnerable workers in efforts to clean up after the nuclear disaster.
専門家は彼らの懸念を日本政府に伝えた。国連専門家はこれまでにも、一般市民にとって「許容できる」とされる放射線への被ばくレベルの増加に対してや、原子力災害後、後始末するための脆弱な労働者の使用について懸念を表明している。

ENDS
終わり

*The experts: Mr. Baskut Tuncak, Special Rapporteur on the implications for human rights of the environmentally sound management and disposal of hazardous substances and wastes; Mr. Michael Fakhri, Special Rapporteur on the right to food; Mr. Clément Nyaletsossi Voule, Special Rapporteur on the rights to freedom of peaceful assembly and of association; and Mr. José Francisco Calí Tzay, Special Rapporteur on the rights of indigenous peoples.
* 専門家:有害物質および廃棄物の環境面での適切な管理および廃棄の人権への影響に関する特別報告者バスクト・トゥンジャク氏、食料への権利に関する特別報告者マイケル・ファクリ氏、平和的な集会と結社の自由の権利に関する特別報告者クレマン・ニアレッツーシ・ブール氏、先住民の権利に関する特別報告者ホセ・フランシスコ・カリ・ツァイ氏。


2020年6月9日

*1:現時点では下記には掲載されていない模様。

「コミュニケーション検索」(英語)(国連人権高等弁務官事務所ホームページ「特別手続コミュニケーション」(英語))

*2:カリ・ツァイ氏(グアテマラ)はこの四月に先住民の権利に関する特別報告者に就任(本文原注のリンク先参照)。なお、三月までは人種差別撤廃委員会のメンバーを務め、日本の第10回・11回連結定期報告審査では在日朝鮮人への地方参政権付与を検討するか等質問していた。