dancept1の備忘録

答弁権のエソロジー

第41回人権理事会:22か国による共同声明書簡、中国によるウイグルの人権侵害停止を要求


  • アジェンダ項目4(理事会の注意を要する人権状況)ほか今セッションは各国による中国への言及が少ないなという印象だったところ *1 、人権理事会議長、人権高等弁務官宛ての7月8日付け「書簡」が公開され、海外メディアもいっせいに報じている。

    joint statement - xinjiang

    書簡」付属書、各国大使の署名1ページ目(国名アルファベット順)
    ヒューマン・ライツ・ウォッチのウェブサイトより)

    参加国はオーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマークエストニアフィンランド、フランス、ドイツ、アイスランドアイルランド、日本、ラトビアリトアニアルクセンブルク、オランダ、ニュージーランドノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイスおよびイギリス。昨年、理事会を脱退したアメリカは参加していない(イタリアやギリシャ、韓国なども見えない)。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下 HRW )が早々に文書を入手して報じている。いわく、

    国連:画期的な共同声明、新疆での人権侵害の停止を要求

    しかしながら人権問題に関する国連の最高機関たる人権理事会(総会の補助機関)が、このもんだいについて<実質的に>なにも行なって来なかったことの方が奇異に感じるというものではなかろうか。

    HRW(2019年7月10日)

  • 「画期的」なのか

    「22カ国が中国に対し、新疆のムスリムへの恐るべき処遇に対処するよう求めた。今回の共同声明は、新疆の住民だけでなく、国連人権理事会を頼みとする世界各地の人びとにとっても、たとえ超大国相手にも人権侵害の責任を明らかにすべきとした点で意義深い」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチジュネーブディレクターのジョン・フィッシャーは述べた。[上掲記事]

    さらにこうある。

    国連人権理事会での中国に関する前回の共同声明は、2016年3月に米国が主導して行われ、12カ国が署名した。今回参加国がほぼ倍増したのは、新疆の現状に対する国際的な関心の高まりが反映している[…]

    超大国」中国を相手に、「新疆の現状に対する国際的な関心」が高まっているのが「画期的」であると。注意すべきなのは、各国の「共同声明」であり「今回参加国がほぼ倍増した」こと、「前回の共同声明」は「書簡」ではなく理事会でのアメリカ主導の公式声明だったことなどか。

  • 前回の「共同声明」(人権理事会第三十一回セッション)

    「人権理事会、年次報告書に関する人権高等弁務官との双方向対話を開催」(2016年3月10日/国連ジュネーブ事務局ホームページ「プレスリリース」)

    人権高等弁務官との双方向対話

    米国は、各国を代表して、中国の問題のある人権記録、とりわけ市民社会の指導者、活動家および弁護士の逮捕・拘留を強調した。彼らは、最近の中国本土以外からの中国人市民の失踪や、正当な手続きなしに自白を強要された個人の増加を引き続き懸念した。各国グループは、中国に人権国際義務を守るよう求めた。

    上の HRW 記事には在ジュネーブ国際機関アメリカ政府代表部がアップした声明文へのリンクがある。

    「項目2:共同声明 - 中国における人権状況」(2016年3月10日/ 在ジュネーブ国際機関アメリカ政府代表部「ニュースとイベント」)下記はこの声明が言及しているアル・フセイン人権高等弁務官による懸念表明。

    「OHCHR | 国連人権主査、中国による弁護士、活動家に対する弾圧を深く懸念」(2016年2月16日/国連人権高等弁務官事務所「プレスリリース」)

    共同声明は2015年7月9日の「709事件」*2 が中心でウイグルの収容所については提起されていないが、このときは今回ほど大きくとり上げられてはいなかったようにおもわれる。ことに昨年七月(あるいは10月)のペンス演説以降、「国際的な関心」がより「高ま」ったということだろう *3

  • 「書簡」の意味

    • BBC(2019年7月10日)

      しかしながら、合同書簡は理事会で読み上げられる正式な声明、あるいは採決のために提出された国連決議より外交的重要性は低い。

      これは各政府が中国からの潜在的な政治的・経済的反発を恐れているためである、と外交筋はロイター通信に語った。

      「22か国、中国に大量拘留を終わらせるよう強く促す」

    • ロイター(2019年7月10日)

      活動家たちが求めたような、理事会で正式な声明が読み上げられたり、採決のために提出される決議には踏み込んでいなかった。外交筋によれば、これは各政府が中国からの潜在的な政治的・経済的反発を恐れたためである。

      「新疆への初めての協調的的対応だ」、西側の外交官は水曜にロイター通信に述べた。「決議のアイデアはカードにはなかった」。

      別の使節は、「理事会の公式文書として発表されるので、正式な措置だ…それは合図だ」と語った。[*4

      「独占:西側、日本、ウイグル人拘留について国連で中国を非難」

    前回は公式声明なのに対し、今回はこの声明を理事会の公式ドキュメントに残すことを要請するレベルの「書簡」に過ぎないと。さらには、

    • ニューヨーク・タイムズ(2019年7月10日)

      外交筋によると、他の国が理事会で決議を主導し、中国が自国を批判する国々に対してしばしば脅迫する政治的・経済的報復に自らをさらす可能性は、とくに主要なフォーラムにおいては、ほとんどない。

      一方、この共同書簡には明白なコーディネーターもスポンサーもいなかったので、中国が報復のために特定の署名者を選び出すことは困難だった。外交筋によればこの書簡は、新疆における中国の措置に憤りを表明するための、リスクは少ないにもかかわらず効果的な方法を各国に提供したという。

      「中国、新疆弾圧を22か国に非難される」

    当然ながら中国は強く反発、こちらについては長くなったので別記事に(関連エントリ参照)。

    • インディペンデント(2019年7月10日)
      ある外交官はロイター通信に、中国代表団はこの動きに「激怒して[hopping mad]」おり、独自の書簡を準備していると述べた。
      「約二十数カ国が国連で結集、中国のムスリム100万人の大量拘留を初めて非難」
  • メディアの対応

    こんかいは NHK 始めとして日本の報道機関もそれなりにとり上げている。潮目の変化を感じさせるという意味では「画期的」ともいえるのだろうが、上(ロイターなど)の指摘あたりは報じておくべきだろう *5 。扱いが小さいこともあるのだろうが、そもそもこうした内容をあまり理解していないような気もする(笑)。前回の「共同声明」には日本も参加しており、

    オーストラリア、デンマークフィンランド、ドイツ、アイスランドアイルランド、日本、オランダ、ノルウェースウェーデン、イギリス、そしてアメリカを含むグループを代表してこの声明を読むことは光栄である。[前掲第三十一回セッション声明]

    冒頭でも述べたように、これまでも理事会での公式声明において西欧各国が中国の人権状況に懸念表明は行なってきているということもある *6

  • 日本政府の対応

    日本のメディア各社は野上浩太郎官房副長官の記者会見の内容をほぼそのまま報じているように見える。外務省ではなく官邸の記者会見での発表ということで、これまでの理事会での西側各国に比べての煮え切らない対応 *7 を考え合わせるに官邸主導かと勘ぐったり。また、報じ方を見ていると会見でのやり取りは下記のとおりではあるものの、こんかいは米中対立を境にした潮目の変化を捉えた政府側が情報を流し、メディアにその通り報じさせただけのような気も——考えすぎか(苦笑)*8

    • 内閣官房記者会見(「首相官邸ホームページ」)

      ※ 冒頭発言ではなく日経/黒沼記者の質問への回答( 6' 35" - )。

    • (外務省ホームページ)

      下記ほか、週一の外相・報道官記者会見でもやり取り等なし。ペンス演説以降ウイグル問題への言及は以下があった。昨年の総理訪中の際の首脳会談では言及したようだが(下記参照)、G20 での会談・夕食会では香港および下記のような内容になっていたと報じている。

      (2019年6月27日)

      (6)その他

      ア 香港の最近の状況に関し,安倍総理から,引き続き「一国二制度」の下,自由で開かれた香港が繁栄していくことの重要性を指摘。

      イ 安倍総理から,いかなる国であっても,自由、人権の尊重や法の支配といった国際社会の普遍的価値が保障されることの重要性を指摘。

      (2019年3月19日)

      新疆テロ対策の白書

      共同通信 斎藤記者】中国におけるウイグル民族の人権問題についてお伺いしたいと思います。中国の国務院弁公室が昨日,新疆ウイグル自治区の反テロ政策という言い方なんですが,これをテーマにした白書を発表しました。この白書では,テロリストと白書が呼ぶ人,約1万3,000人を拘束し,爆発装置2,000個あまりを押収,違法な宗教活動4,800件以上を取り締まったと,このように伝えています。民主主義と思想・言論の自由を重んじる我が国として,中国にこの問題をめぐって懸念を伝える必要があるかどうか,これについて大臣のご見解をお伺いしたいと思います。

      【河野外務大臣】テロ対策という観点もあれば,人権侵害と言われている部分もありますので,日本政府としてしっかりと注視していきたいと思っておりますし,必要があれば中国に対して問題提起はしてまいりたいと思います。

      (2018年10月26日)

      (地域・国際情勢)

      […]

      ト 安倍総理から,ウイグルの情勢も念頭に,中国国内の人権状況について注視しており,意思疎通を強化したい旨述べた。

      (2018年7月27日)

      中国ウィグル族に関するペンス米国副大統領の発言

      朝日新聞 田嶋記者】中国に関連してですね,アメリカのペンス副大統領が講演で,中国政府がウィグル族を不当に収容しているという懸念を表明したようですけれども,これについて日本政府としても同じようなお立場でしょうか。

      【河野外務大臣】中国国内のウィグル民族については,これは中国の国内問題,内政問題という認識であります。他方,どこの国においても,人権とか自由といった基本的な人権・価値観というのは尊重されるべきであろうというのが日本政府の立場でございます。

  • (その他メディア報道より)

    • 共同通信(2019年7月11日)

    • 時事通信(2019年7月11日)

    • 産経ニュース

      (2019年7月12日)(2019年7月11日)

    • NHKニュース(2019年7月11日)

      「中国、ウイグルに関する国連への書簡に反発」

      「国連、中国にウイグル抑留収容所閉鎖を強く促す」

    • ロイター

      (2019年7月13日)

      「「幸せな 」新疆は規範、中国、西側に語る」

      (2019年7月11日)

    • ワシントン・ポスト(2019年7月11日)

      ※ 例によってトランプ政権批判に持っていく「分析」。

      「分析」| 22か国、初めて中国のウイグル人ムスリム弾圧を非難。米国関与なし」

    • ガーディアン(2019年7月11日)

      「20以上の大使、中国の新疆におけるウイグル人の扱いを非難」

    • CNN(2019年7月11日)

      「22か国、中国に新疆ウイグル収容所閉鎖を求める書簡に署名」

    • オーストラリア放送協会(2019年7月11日)

      「国連の国々、中国のウイグル人大量拘留についての書簡を書くも決議には尻込み」

    • 中国国際放送局(2019年7月11日)

  • 国連人権高等弁務官事務所ホームページ)

    ※ 現時点で下記などには「書簡」の掲載なし。[追記]:その後7月23日付で番号が取られ掲載された模様: A/HRC/41/G/11(英語(Word))。37か国による声明の方は A/HRC/41/G/17(下記関連エントリ 2019-07-13 参照)。

    「2. 政府からの連絡(Communications from Governments)」(「人権理事会41回セッション:ドキュメンテーション英語))

  • 関連エントリ


2019年7月18日
2019年9月14日(「書簡」正式化文書へのリンク追加(国連人権高等弁務官事務所ホームページ))

*1:下記参照。

下記のとおり会合要約のプレスリリース発行が止まってしまったので見落としもあろうが、上掲以外では同じく下記初日の基調講演でバチェレ人権高等弁務官が香港に言及(締約国ではないが)した程度ではないか。

NGO は上で挙げた 2019-07-03 ほか言及している。

*2:BBC(2019年1月28日)

*3:下記参照。

*4:各国大使が署名した書簡付属書に、「本書簡と付属書を回覧し、人権高等弁務官のウェブサイトで公開するために人権理事会第四十一回セッションの文書として記録していただければ幸いである」とある(定型文ぽい)。

*5:なお、ロイター日本語版も引用した部分の最後のセンテンスを落としているのだが、まぁこれはどちらでもよいかんじ(その他メディア報道より、参照)。

*6:下記など。

*7:下記「歪曲(?)表現」など参照。 

*8:今セッションでは下記もあったのでそのように想起(苦笑)。